日本では「芸術か、わいせつ物か」という議論がいまだに巻き起こるが、現代アートで“セックス”はいつの時代もテーマやモチーフとなった。では、これまで性をめぐる表現はどのように進化/深化し、その突端でアーティストは何を提示しようとしているのか――。ここでは、主に21世紀のアートとセックスの関係を探りたい。
【1】ジュディ・シカゴ作品集『Embroidering Our Heritage: The Dinner Party Needlework』(Doubleday)
「現代アートとセックス」といったとき、「その作品は芸術か、わいせつ物か」という議論になりがちである。近年も、2014年7月にマンガ家のろくでなし子が自らの女性器を3Dプリンター用のデータにし、配布したとして「わいせつ電磁的記録媒体頒布罪」の疑いで逮捕された。あるいは、同年8月に愛知県美術館で開催された「これからの写真」展では、写真家の鷹野隆大によるヌード作品がわいせつ物の陳列に当たるとして撤去を求められた結果、鷹野側が作品の一部を半透明の紙で覆って展示したことが注目された。
しかし本稿では、“セックス”という言葉にジェンダーやセクシュアリティ、LGBTQ(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クィア/クエスチョニング)といった意味合いも含めたい。その上で、21世紀の現代アートにおいてセックスはどう表現されてきたのか、前世紀からの流れを踏まえつつ考察したい。
フェミニズムとエイズ問題を表現
【2】シンディ・シャーマン作品集『The Complete Untitled Film Stills』(MoMA)
東京大学特任准教授の竹田恵子氏によれば、いわゆるフェミニスト・アートは、アメリカの公民権運動や第二派フェミニズムの興隆を背景に、70年代に大きな盛り上がりを見せ始めたという。
「特に有名なのは、ジュディ・シカゴ【1】の《ディナー・パーティー》(74~79年)。これは三角形のテーブルに、ヴァージニア・ウルフやジョージア・オキーフといった女流作家39人のヴァギナをかたどった皿が並べられたもので、フェミニスト・アートにおけるメルクマール的な作品といえます」
こうした流れは、美術のヒエラルキーでは下位の存在だった写真や、映画批評などで顕著に見られるように。