数ある映画ジャンルの中でも、“スパイモノ”には根強いファンが多い。並外れた体力と叡智を誇り、ときに美女と深い仲になり、無理難題を解決するというのが同ジャンルのイメージだろう。だが、一体主人公は、誰と戦っているのだろうか? 世界的なヒットを記録した3つのシリーズから、“スパイ映画の敵役”の変遷を、国際情勢と共に見ていきたい。
『007 逆襲のトリガー』(KADOKAWA)
各国の諜報機関の密命を帯びたエージェントが、腕時計や眼鏡に仕込んだ特殊なスパイ道具を駆使しながら、世界を股にかけて悪の組織と対決する。数ある映画の中でも、スパイ映画は幅広い人気を得ているジャンルだろう。特に50年以上の歴史がある『007』シリーズや、トム・クルーズ主演の『ミッション:インポッシブル』シリーズを見た人は多いはずだ。だが、こうした作品を思い返してもみても、ディテールやアクションシーンは覚えているものの、敵が何者で、何を目的としていたか、よく思い出せないという人はいないだろうか? なぜ、最近のスパイ映画の敵役はわかりにくいのだろうか? 映画ライターの福本ジロー氏は、こう述べる。
「最近のスパイ映画は『007』も含めて、映画の後半まで“敵”が何者かわからないことが大半です。主人公は真の敵にたどり着くまでに、さまざまな偽装と謎を解きつつ悪役と対峙しなければなりません。映画を作る側としては、観客を飽きさせない展開が求められるため、最終的に誰を倒せばいいのかよくわからないまま強引に話を進める。結局見終わった後、カタルシスは覚えていてもどんな内容だったかよく思い出せない、という作品も多々あるわけです」
そうはいいながら、各スパイ映画の敵役のキャラをかなり記憶していた福本氏には、随分ご教示頂いたのだが、それでは人気スパイ映画の敵は何者だったか。ここから先は『007』『ミッション:インポッシブル』『ジェイソン・ボーン』シリーズを中心に、解説していきたいが、公開から年月の経った作品が多いとはいえ、ある意味ネタバレでもあることも、ここで明記しておきたい。