今年、ゾンビ映画の始祖とされるジョージ・A・ロメロが鬼籍に入り、韓国のゾンビ映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』が日本でもヒットした。では、現在まで映画の中のゾンビはどう“進化”したのか――。その身体性の変容から表象してきた時代や社会まで、非「映画秘宝」的にこのジャンルを読み解きたい。
韓国映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』は全国公開中。配給:ツイン (C)2016 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & REDPETER FILM. All Rights Reserved.
去る7月16日、“ゾンビ映画の父”と呼ばれたジョージ・A・ロメロ監督が死去した。また、9月1日より日本でも公開中の韓国産ゾンビ映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』が大ヒットし、2017年の映画界はゾンビが存在感を放った年といえそうだ。そこで本稿では、映画においてゾンビはどのように進化し、何を表象してきたのかを考察していきたい。まず、多くの人が思い浮かべるゾンビ像はいつ形成されたのか? 『新世紀ゾンビ論』(筑摩書房)の著者でSF・文芸評論家の藤田直哉氏は、こう語る。
「その原型は、ロメロ監督が1968年に製作した『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』に求めることができます。すなわち、ノロノロと徘徊する生ける屍が、人間を襲っては噛みつき、噛みつかれた人間は次々とゾンビ化するというパターンはここで生まれました。ただし、ゾンビが一大ムーブメントとなり、そのイメージが伝播するのは、同監督による続編『ゾンビ』(78年)まで待たねばなりません」
ちなみに、『ゾンビ学』(人文書院)の著者で奈良県立大学准教授の岡本健氏によれば、『ナイト~』はゾンビ映画の記念碑的作品であるが、ロメロ自身は同作でゾンビを描いたつもりはなかったという。
「ロメロは、死者を吸血鬼化させるウイルスが蔓延する世界を描いた映画『地球最後の男』(64年)を参考に『ナイト~』を製作したと語っており、作中に登場する生ける屍も“グール(食人鬼)”と呼ばれています。つまり、彼としては単に人を食らうモンスターを撮ったはずですが、それを受け手の側が新しいゾンビと認識したわけです」(岡本氏)
岡本氏が「新しいゾンビ」と言ったように、『ナイト~』以前にもゾンビ映画は存在した。初めてゾンビが登場した映画といわれるのが、32年製作の『恐怖城(ホワイト・ゾンビ)』である。