――200万部超の大ヒットベストセラーとなっている、小学生向け漢字ドリル『うんこ漢字ドリル』。これを、本誌ではおなじみの東京大学文学部美学科教授にして稀代のスカトロジストの三浦俊彦大先生が、徹底分析! いま、哲学的うんこ批評のトビラがおごそかに開かれる!
元トレーダー社長の一撃
『うんこ漢字ドリル』とは?文響社発行の「うんこ漢字ドリル」シリーズ、全6冊。うんこが詰まってます!2017年3月に発売され、現在大ヒットとなっている小学生向け漢字練習帳シリーズ。6学年分の6冊から成り、発売からわずか2カ月の時点でシリーズ累計200万部超を記録。「出席番号順に うんこをてい出する。」など、すべての例文に「うんこ」の語が使用されているのが最大の特徴であり魅力でもある。
同シリーズを発行する文響社は2010年に設立された新興出版社で、学習書を発行するのはこれが初。同社代表の山本周嗣氏は元リーマン・ブラザーズのトレーダーで、2007年に大ヒットした自己啓発書『夢をかなえるゾウ』などで知られる作家・水野敬也氏の盟友としても知られる。
『うんこ漢字ドリル』はタブー破り? 教材にうんこを採用したことがですか? いや、違うでしょう。
父が 会社で うんこを もらして 帰って きた。(2年生)
うんこをもらす先生だけれど、ぼくは 尊敬しています。(6年生)
たしかにあのドリルの世界では、親や先生がしょっちゅううんこをもらします。しかし……、
男子は 一日中 うんこの 話を して います。(1年生)
女の子の 前では うんこの 話は やめて おこう。(1年生)
そう。『うんこ漢字ドリル』が侵した本当のタブーは、うんこと見せかけて、実はジェンダーじゃないですかね……。先生がうんこしている挿絵ときたら、すべて男の先生。小学校教員は7割近くが女だというのに……。家族うんこも、父と祖父はうんこしまくり・もらしまくりなのに、母と祖母は一回もうんこしてません。
授業参観で、父がせい大にうんこをもらした。(4年生)
イクメンが増えた男女平等的昨今とはいえ、授業参観で男女平等ランダムに親を指さしたら母親にあたる確率が高いと思うのですが……。子どもなりのリアリティに配慮したんですかね。おとうさんがうんこもらしたら笑えるけど、おかあさんがそうなったら悲しい……と。いや、だから、そう決めつけちゃダメでしょって話なわけで。
校長や町長のうんこを見に行く会、もいっぱい出てきますが、やはり挿絵はみんな男。
うんこをがまんしながら 演奏を続けるピアニスト。(6年生)
って、ピアニストなら女がイメージ的に合う気がするんですが、挿絵はやっぱり男ですねぇ。女子定位の現場モノは全学年通じて3つだけで、
うんこを もらした 妹を かばう。(2年生)
かの女は、うんこを使った 護身術で身を守ったそうだ。(5年生)
って、幼すぎたり実用的すぎたりでうんこ色希薄だし、唯一うんこのためのうんこをしてくれている年上の女は
姉が 音楽に のって うんこを して いる。(1年生)
ノリノリなら挿絵がほしかった……。
挙式の直前まで うんこをしていました。(4年生)
花嫁花婿が向かい合ってる挿絵ですが、臭気マークが描かれているのは花婿のお尻だけ。
う~ん……。リアルうんこは「男の領分」だという意味ですか? そんなことないと思うんですが……。
とはいえ、この〈やられた感〉は半端じゃありませんね。ああ、どうして俺が思いつかなかったかなあ。うんこで勉強とはな! 世評はいろいろですが、あんな声こんな声はいつものことですね。「週刊新潮」から引用しましょう。