(写真/永峰拓也)
『人性論』
デイヴィッド・ヒューム(土岐邦夫・小西嘉四郎/訳)/中公クラシックス/1550円+税
哲学の分野以外でも『イングランド史』を著し、フランス大使代理、国務次官などの職を務めたヒューム。本書には、そんな彼が因果論について考察した主著『人性論』抄訳と社会契約論批判『原始契約について』を収録。
『人性論』より引用
「政府に服従しなければならない理由を問われた場合、私だったら、なんのためらいもなく、そうしなければ社会が存続できないからだ、と答える。この答えは、明快で全人類にとってわかりやすいものである。」
(デイヴィッド・ヒューム「原始契約について」、『人性論』中公クラシックス所収)
デイヴィッド・ヒュームは18世紀イギリスの哲学者です。ジョン・ロックなどとともにイギリス経験論を代表する哲学者として位置づけられています。経験論というのは、一言でいうと、経験によって人間の知識はつくられると考える立場のことです。
たとえばジョン・ロックは、人間の知識は生まれたときにはまったくの白紙で、人間が生きていくなかでさまざまなことを経験し、知覚することで知識は形成されていく、と論じました。ヒュームはそうした経験論のなかでもとくに知覚を重視し、人間の知識は人間がさまざまなものを知覚することで抱く観念をもとに形成されると考えました。ただしそれだと、人間はそれぞれ経験することや知覚するものが異なるにもかかわらず、数学のような普遍的知識をなぜ共有することができるのか、という難しい問題にぶちあたってしまいます。哲学の歴史のなかで、ヒュームの考えを受けて、その難しい問題に取り組んだのがカントでした。
今回はそのヒュームが国家についてどのように考えていたのかをみていきましょう。ヒュームは生前、古典派経済学の父とされるアダム・スミスとかたい信頼関係で結ばれており、またヒューム自身も自由貿易を擁護していたので、しばしば経済グローバリズムに賛成する脱国家主義者だとみなされることがあります。しかし上の引用文をみると、ヒュームに対するそうした見方はまちがっていることがわかります。