――サブカルを中心に社会問題までを幅広く分析するライター・稲田豊史が、映画、小説、マンガ、アニメなどフィクションをテキストに、超絶難解な乙女心を分析。
2015年度の国勢調査によれば、35~39歳女性の23・3%が未婚、40~44歳女性の19・1%が未婚だそうだ。1990年度にはそれぞれ7・5%、5・8%だったので、まごうことなきウナギ登り。もちろん未婚率の上昇は男性も同様であり、別に結婚していれば人として偉いという話でもないが、彼女たちアラフォー女性の未婚率上昇にそれなりの影響を与えたのではないか……と思われるマンガ作品がある。1995~2001年に連載され、当時20歳前後の女性に絶大な支持を得た『ハッピー・マニア』だ。
本作はゼロ年代中盤以降に大量発生する、いわゆる“こじらせ女子マンガ”群の精神的ルーツであり、現在アラフォーの女性にとっての“恋愛バイブル”としても機能した大ヒット作である。
物語は、恋多き24歳(連載開始時)の重田加代子(シゲカヨ)が理想の恋人を求め、動物的直感で次々と男にアプローチしては懲りずに玉砕を繰り返す日々を、コメディタッチで綴るもの。シゲカヨが恋に落ちる相手はDJ、陶芸家、温泉宿の若旦那からサラリーマン、編集者、ライター、果ては宗教関係者まで節操なく、その顛末は彼氏のフタマタ発覚・ヒモ化・不倫状態に耐えられず――などバリエーション豊か。シゲカヨはそれでもめげることなく、求道者のごとく「究極の幸せ」を求めてトライアル・アンド・エラーを繰り返す。
『ハッピー・マニア』が偉大だったのは、20代女子が直面する恋愛についての失敗パターンとそこからの「学び」を、作中で可能な限り網羅していたことだ。
「好きな男と幸せにしてくれる男は違う」「男がそばにいてやりたいと思う女は、かわいい女、弱い女、病気の女、仕事ができない女」「結局淋しくてつらいのがスキだから、いつまでたっても幸せにならない」「友達が支えられる場所と男が支えられる場所は違う」「ラクだから一緒に住む人は、ラクじゃなくなったら離れていく」「おなかがすいてごはんたべるまでが一番幸せ。食べ終わっておなかいっぱいになると淋しくなる」「距離があるからやさしくできるし、責任がないからどこまでも許せる」――。
目についたセリフをみつくろって格言風に整えるだけでも、恋愛系キュレーション記事のひとつやふたつ、速攻ででっち上げられそうだ。格言の手軽な引用元として、文字通り“バイブル(聖典)”の名は伊達じゃない。