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「マル激 TALK ON DEMAND」【127】

【神保哲生×宮台真司×橋本淳司】水道民営化の目的は老朽化対策か海外事業参入か?

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――ビデオジャーナリストと社会学者が紡ぐ、ネットの新境地

【神保哲生×宮台真司×橋本淳司】水道民営化の目的は老朽化対策か海外事業参入か?の画像1
『ウォーター・ビジネス――世界の水資源・水道民営化・水処理技術・ボトルウォーターをめぐる壮絶なる戦い』(作品社)

[今月のゲスト]
橋本淳司[ジャーナリスト]

今日、日本の水道行政は多くの問題を抱えている。高度成長期に整備された水道網は40年の耐用年数を迎え、全国では交換が必要な水道管が8万キロにも及ぶという。これを現在のペースで交換すると130年かかるとされ、財源を含めた解決策が水道民営化だ。厚生労働省ではこれによる事業の効率化を主張するが、多くの落とし穴があるという。

神保 マル激ではこれまでも種子法や家庭教育支援法、共謀罪など、今国会で審議された法案の中でも問題の多い法案を取り上げてきましたが、森友・加計学園問題に多くの時間が割かれる中、さしたる審議もないまま、日本社会に不可逆的な影響を及ぼす可能性のある問題法案が次々と可決されています。今回はその中でも水道法の改正案を取り上げます。これは水道事業の民営化を可能にする法案です。とりあえず今回は時間の関係で継続審議になりましたが、法律ができるのは時間の問題だと思います。

宮台 この問題は、メディアでやや扱いにくいところがあります。つまり、視聴者が即座にシロかクロかわかるタイプのものではなく、アーキテクチャーの変更なので、“風が吹けば桶屋が儲かる”的な因果関係を押さえなければならない。テレビならその説明だけで、時間が終わってしまいます。

神保 水道は誰もが利用するインフラですが、水道事業の仕組みとなると、意外と我々は知らないんですね。そのため今回は、まず水道事業のあらましから見ていこうと思います。ゲストは水問題に詳しいジャーナリストの橋本淳司さんです。前回(13年1月19日第614回『水の話』)は、世界に水が足りているのか、というマクロな話でしたが、打って変わって今回は、自分たちの問題になりました。

橋本 水問題は基本的にローカルな問題で、さまざまな現象として現われます。世界的には水不足であったり、汚染だったりという問題がフィーチャーされていますが、先進国の水問題というのは、水道事業、下水道事業をどうやって持続させるか、ということで、実はもう顕在化していました。

 水道の歴史的な経緯からお話しすると、もともと人類は水を汲みに行って使っていた――つまり、自分から水に近づいていたのですが、あるときから、水を自分に引き寄せる時代がやってきました。近代以前にローマ水道というものがあり、これは自然の水を自然の流下、つまり自然の傾斜の勾配によって運んでくるというものでした。

宮台 江戸時代の玉川上水なども、まさにそういう水道でしたね。

橋本 それ以降、近代水道になると、浄水技術と、ポンプの圧送により、常時給水できるようになりました。日本には、横浜にヘンリー・S・パーマーという技術者がやってきて、1887年に水道の第1号ができます。それ以降、徐々に普及してきて、日本全国に普及されたのは高度経済成長期なんです。

 基本的に水道事業は各市町村が行っています。東京都の場合には、東京都一元化といって、自治体独自にやっているのは武蔵野市、羽村市、昭島市、檜原村の4つだけ。都全体は多摩川、荒川、利根川などの水を引っ張って浄水して送っており、一方、例えば昭島は自己水源、地下水を使っています。

神保 例えば、自己水源の自治体の水の方がおいしいなんてこともあるのですか?

橋本 昭島は地下水が豊富で、非常においしい。ほとんど浄水せず、水道法で定められている少量の塩素の添加のみで出しているので、料金も安いです。このような自治体ごとの取水や浄水の違いが、水道料金の値段の差を生むひとつの要因になっています。

神保 多摩川も昔に比べれば見た目は随分きれいになりましたが、飲用水にするには、いろいろな処理が必要になる。当然、その分、コストがかかる。

宮台 自己水源で水質が良く、しかも料金も安い、という自治体があるということは、水を大量に使う、例えば食品会社などは、そういう場所に注目したりはしないのでしょうか?

橋本 そもそも、水道水をそのまま使うところは、だんだん少なくなってきています。それが水道経営の悪化につながっているのですが、大口の企業の多くが、自己水源を持つようになっている。自分の敷地内で地下水を掘って、それを使うんです。

神保 水道経営の悪化という話が出ましたので「水道事業が直面する課題」をまとめてみました。「有収水量(水道事業者の収入につながる利用量)の減少」「地域間の料金格差」「負債」「老朽化と設備更新」「耐震化」「職員の高齢化」「人口減少への対応」などが挙げられています。

橋本 人口減少とともに、水道を使っていた工場が海外に出て行ったり、地下水を利用するようになっており、また節水家電が普及し、家庭における水使用量は、2000年頃は1人1日当たり320リットルくらいが、現在は280リットルで済んでいます。それらが「有収水量の減少」という問題になっていますが、これは「課題」というより「前提」だと考えています。

神保 「地域間の料金格差」ですが、2040年までにどれぐらい水道料金が上がるかの予測値で見ると、青森県の深浦町が現在の20立方メートル当たり6100円(12年)から、1万7688円でトップ。逆に安い事業体を見ると、兵庫県の赤穂市が790円から1031円でトップになっています。現時点でも790円と6100円という8倍くらいの差があるんですね。それが約20年後には17倍まで広がる。もし予想通りに進めば、深浦町は水道料金が高すぎて、人が住めなくなりそうです。

橋本 深浦町に聞くと「10数カ所に水道施設が点在し、維持管理費が高くつく。地形の起伏が激しく、ポンプで水を送るため、電気料金の値上げでさらに厳しくなる。そこに老朽化や人口減少の影響が出てくる」と言います。これは、水道料金はコストを給水人口で割って算出されるからです。面積の広い自治体、集落が点在しているようなところは水道管を巡らせなければならず、さらにコストがかかります。

神保 コンパクトシティ問題ですね。この番組では夕張の財政破綻問題を取り上げてきましたが、夕張の場合、人口が10分の1になっても、市の地理的な規模が10分の1に縮小したわけではないので水道のインフラは簡単に縮小できない。それにしても、水道会計が「負債」を抱えているのはなぜでしょう?

橋本 水道事業は整備産業であり、先行投資が非常にかかる。過剰な設備投資の借金が重くのしかかるケースもあります。政令指定都市の中で水道料金が札幌市に次いで高い仙台市によると、「1923年から99年までに5回、水道事業の拡張を行い、企業債を発行しました。その利息が高くついています。泉市と合併した経緯があり、地域が広いわりに人口密度が低い。よって水道管の距離が長くなり、整備が大変な状態」といいます。

 そして水道事業においては、いまだにこれから人口が増加することを夢見ている自治体があるんです。長崎県による石木ダムの計画を見ても、ここ数年は人口減や節水家電の普及によって水需要は減っているにも関わらず、市の水需要予測はなぜか今後右肩上がりになっている。新しいダムをつくることが、恐らく将来の負債となって残っていくでしょう。

神保 水道管の耐用年数が40年なので、その間に回収すればいいと考え、借金して水道管を敷設したまではよかった。だが、40年たってみたら人口が減り、経済状況も悪くなり、予定通りに更新ができない。特に60~70年代の高度成長期に敷設された設備が、ちょうど耐用年数を迎えている。しかし、必要な更新をすべて行うには60兆円が必要になると試算されているとか。耐用年数を迎えても設備を更新できないと、どのような問題が起きるのでしょうか?

橋本 老朽化した水道管の破裂事故は毎年1000件を超えています。全国に張り巡らされた水道管の総延長は約66万キロですが、そのうち 12・1%が法定耐用年数40年を超えています(12年時点)。一方で更新率は年間0・76%程度。厚生労働省は市町村に更新を急ぐよう求めていますが、財政難から追いつかず、すべての更新には130年以上かかる計算です。管の寿命を考えると、130年の間にはさらに数回の更新が必要になるでしょう。

 また「耐震性」については、水道管は地震が起きたときに外れてしまうことがあるので、更新する際には耐震管を入れたほうがいいのですが、水道管の耐震化は全国平均36%という状況です。

 そして最も大きな問題は、「人口減少への対応」。今回の水道法改正において、今ある管をいかに維持していくか、ということが論点になっていますが、実際には人口がどんどん減っていく。人口減少が著しく進んでいる地域にも今は水道を通していますが、そこを更新するのか、というときに厳しい選択が待っています。

宮台 更新をしない選択をしたときは、水をどう調達するようになるのでしょうか?

橋本 水源的には井戸、雨水、あるいはきれいな湧水が出ている地域というのもあるかもしれません。例えば、それを簡単に浄水する装置を使う。実際にこういうオフグリット化を目指した住宅が開発されていますが、実用化はこれからだと思います。

神保 井戸というのは、どこでも出るものですか?

橋本 200メートルくらい掘れば出ますが、個人で掘るとなると、かなりのコストです。厳しい場所では、飲用水はペットボトル、週に2回程度、給水車がやってきてタンクを置いていく、ということになる可能性もあり、実際に、自治体によっては自己水源化の試みがなされる例も出てきています。

神保 「職員の高齢化」についてはいかがですか?

橋本 人がどんどん減っていて、若手といっても、いまは40代の方がメインくらいになっています。そうすると、定年退職していくにつれて、水道の技術者が減っていくということが考えられます。

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