――連続する弾道ミサイルの発射や金正恩氏の過激な発言など、今、北朝鮮関連の話題がメディアに登場しない日はない。しかし、彼らの文化について報じられることはほとんどないだろう。そこで本稿では、北朝鮮文学、そして北朝鮮の作家たちの動向を見つめ、同国民にとって文学がどんな役割を果たしてきたのか迫ってみたい。
金日成が主人公! 金日成万歳!
『不滅の歴史』シリーズに代表される、金日成が“ヒーロー”となる小説は、書ける作家も限られている。
「北朝鮮の小説は、政治宣伝の道具なんです」
『北朝鮮宣伝画の世界』【1】などの著書を持つ、朝鮮文化評論家の大場和幸氏は、開口一番そう指摘する。
「北朝鮮の小説が政治宣伝の道具であることを理解するためには、北朝鮮の歴史を知る必要があります。1945年のソ連赤軍の侵攻、日本の敗戦によって、今の北朝鮮地域はソ連に占領され、ソ連軍の将校であった金日成が送り込まれました。以降ソ連の占領下で、文学や映画なども、スターリン主義の影響を強く受けることになります。
例えば、翌46年には北朝鮮・元山市の詩人たちによる詩集『凝香』が、朝鮮労働党の機関紙『労働新聞』紙上で“思想性がない”と批判され、詩集は回収、発禁にされる騒動に発展しました。参加していた詩人たちは身の危険を感じ、南朝鮮地域に逃亡した人もいたほどです。このような経緯を経て、北朝鮮の文学は人々の手を離れ、党のための文学、政治宣伝のための文学としてスタートしたのです」(同)
北朝鮮の建国は48年。言い換えれば、同国独自の文学は、朝鮮労働党が国家を建設するために国民を鼓舞扇動する“宣伝媒体”としてスタートしたともいえるだろう。北朝鮮文学のこうした特徴は、当時から現在まで一貫しているのだろうか?