――中公新書から出された『応仁の乱』がバカみたいに売れている。日本史関連の書籍としては異例のことだというが、知られざる史実をつまびらかにしたような本当に面白い書籍は、ほかにもあるのではないか――。そんなヤバい“日本史”本15冊を、歴史学者や社会学者、ジャーナリスト、お笑い芸人らに紹介してもらった。
岡美穂子(おか・みほこ)
1974年、神戸市生まれ。人間・環境学博士(京都大学)。スペイン、ポルトガルなどへ留学。現在は東京大学史料編纂所の准教授としてキリシタン史などを研究。著書に『商人と宣教師 南蛮貿易の世界』(東京大学出版会)、共著に『大航海時代の日本人奴隷』(中公叢書)。
南蛮貿易で買われた日本人奴隷は、アジア、ヨーロッパ、アメリカ大陸へ渡ったという。(写真/Bridgeman Images/アフロ)
2013年5月13日付の「読売新聞」にて、安土桃山時代に日本人奴隷3人がメキシコに渡っていたことを示す史料が発見されたと、いささかセンセーショナルに報じられました。日本人と“奴隷”というワードは一般的に結びつきにくいかもしれませんが、16世紀半ば~17世紀初頭の南蛮貿易で多数の日本人がポルトガル人によって国外へ連れ出されていたことは、研究者の間では知られていました。
この日本人奴隷の存在は、ポルトガル人の来航により突然生まれたわけではありません。その背景を知るのに適しているのが『雑兵たちの戦場 中世の傭兵と奴隷狩り』【1】。同書の舞台となる戦国時代は、大河ドラマなどの影響もあり、英雄的な武将たちによる華々しい合戦のイメージがあります。しかし、実際の兵力として機能したのは“雑兵”と呼ばれる下層民で、彼らは平時は農民として生活し、戦時は兵士として食い扶持を得た、いわば“半農半兵”の季節労働者のような存在でした。
もっとも、戦に参加したからといって生活が保障されるほどの恩賞を与えられるわけではないので、雑兵たちは戦地で人を狩り、人質にして身代金をとったり人買いに売ったりしていた。つまり、この時代には人身売買が当たり前のように行われており、そこへポルトガル人がやって来たことで、マーケットが海外にも開かれたのです。