――世界に冠たる日本のトップ自動車メーカーにおける世襲問題を描き、シャープや東芝といった電機メーカーに続いて、国家の屋台骨を支える日本自動車産業の崩壊を予測しているとされる『トヨトミの野望』。トヨタ創業家の現社長・豊田章男氏らと思しき人物が登場し、あまりの生々しさにタブーをやぶった危険な小説として注目を集めている。本書の著者、覆面作家の梶山三郎氏が、覆面を被ってまで伝えたかったこととは何か?
(写真/中山正羅)
2016年10月の発売から現在にかけてじわじわと販売数を伸ばし、業界関係者および本読みを騒然とさせている企業小説がある。トヨタ自動車の歴史をフィクションで再現したとされる『トヨトミの野望』だ。同書は、日本一の自動車メーカー『トヨトミ自動車』のなかで繰り広げられるボードメンバーたちの権力闘争や、力技で醜聞を隠ぺいするなど生々しい描写が続き、まさにタブー破りの一冊となっている。著者の梶山三郎氏は、大きな反発が予想される中、覆面作家として同書を発刊。その正体は、世に知られていない。そこで、サイゾー編集部が、独自のルートで梶山氏に接触し、取材を敢行した。
――昨年末に出版された『トヨトミの野望』ですが、販売部数が徐々に伸びていると聞いています。
梶山三郎(以下、梶山) 講談社からは、広告をほぼ打たなかったにもかかわらず、3万6000部が販売されたと聞いています。電子版はまだ正確な数字を聞いていないのですが、体感では紙の5~6割ほどといったところでしょうか。
他の書籍に比べると電子で読まれている割合が多いと思うのですが、そこには事情があるようです。例えば、トヨタの拠点である豊田市では、関係者が本屋で購入するとまずい。そこで、電子書籍で読んでいると。トヨタ内部事情を暴露したいという意図を持って書いたわけでは決してないのですが、関係者の中では禁書というか……エロ本扱いですね(笑)。
――アマゾンなどのユーザーレビュー欄にも、非常に多くの書き込みがあります。
梶山 レビューの中には、関係者と思われる人の「きわどい」感想も見受けられます。実際、名古屋周辺の反響は大きくて、発売後、中日新聞に広告が掲載されたのですが、それがトヨタ創業家の目に留まり大騒ぎになりました。私は素性を明かしていなくて申し訳ないのですが、本作に取材協力してくれたフリージャーナリストの井上久男氏は、トヨタに出禁になりました。私が受けた報告では、彼は、出版前にトヨタ側にゲラを見せ経緯の説明をしっかりと行っていたし、先方もその経緯に納得してくれていました。それでも創業家が怒りを爆発させたため、一転、ブラックリスト入りしてしまったと。
――彼らの鶴の一声で出入り禁止とは露骨だし、小説に書かれている通りですね。
梶山 日本を代表する企業として、ちょっとおかしな話ですよね。しかも、その話には続きがあります。しばらくすると井上氏は出入りが急に解禁になったそうです。どうやら、現場の記者さんたちの中で「『トヨトミの野望』のせいで出禁になった記者がいる」と噂が立ったみたいで。いつも現場に足繁く通う記者がいなくなれば、当然、そういう話が出てきてもおかしくないでしょう。ただそんな噂は、トヨタ側からすると御曹司(豊田章男氏)の器や沽券に関わる。そこで渋々、解禁したという事情があったようです。
――記者の間では、この本の発刊を止められなかったトヨタの広報担当者が、左遷されたという話が聞こえてくるのですが、そちらは事実なのでしょうか?