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「マル激 TALK ON DEMAND」【125】

【神保哲生×宮台真司×西川芳昭】食文化の多様性を奪う種子法廃止法案の危険性

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――ビデオジャーナリストと社会学者が紡ぐ、ネットの新境地

【神保哲生×宮台真司×西川芳昭】食文化の多様性を奪う種子法廃止法案の危険性の画像1
『生物多様性を育む食と農』(コモンズ)

[今月のゲスト]
西川芳昭[龍谷大学経済学部教授]

戦後の食糧難のさなかにあった1952年、主要農作物種子法、通称、種子法が制定された。その後、日本の食料の安定供給に重要な役割を担ってきたが、国会でこの法律の廃止法案が可決された。だが、専門家は、これにより、食文化の多様性が失われるばかりか、日本の食料安全保障にも危険が生じかねないと警鐘を鳴らす――。

神保 最近のマル激では、国会が森友学園問題に時間を割いている間に、その裏で国家100年の計に関わると言っても過言ではないほど重要かつ問題の多い法案が着々と審議され、その一部は既に通過していることを指摘してきました。具体的には家庭教育支援法や親子断絶防止法、共謀罪(組織犯罪処罰法改正案)、医療ビッグデータ法案(次世代医療基盤法案)、放射線障害防止法改正案などです。その中に、今回のテーマである種子法の廃止法案というものが含まれています。これは既に可決してしまった法律ですが、施行されるのが1年後なので、今のうちにひとりでも多くの人にその意味を知っておいていただきたいと思います。

 僕自身、『食の終焉』(ポール・ロバーツ著/ダイヤモンド社)という本の翻訳をしたことがあり、この番組でも「食」にはこだわってきました。「種」は「食」の根幹を成すものであることは、論をまちません。あまり考えたことがない方もおられるかもしれませんが、我々が食べているものはすべて、種から始まっています。すべての植物が種から始まっていることは当然ですが、同時に肉も、家畜は穀物などの植物を餌にして育っていますから、広い意味で「種」からできていると言っても過言ではありません。

宮台 この番組では、種を「知財」として見てきました。例えば「F1種」(交配種)に代表されるように、大幅な収量アップが期待できるような種を企業から買う。これを販売している企業は、世界的に見ると、モンサントに代表される独占企業体を含めて巨大な企業が多く、それに依存してしまうと、価格を吊り上げられたり、あるいは政治的な思惑で販売を渋られたり、というリスクがあります。そうなってから種子法が廃止されても、昔ながらの在来種、つまり固定種の、種がもうない、ということになりかねません。

神保 「種子法」というのは正式には「主要農作物種子法」といいます。主要農作物というのは主食になる穀物のことで、つまり米、麦、大豆のことです。日本では特に主食の米の種が、この法律によって長らく保護されてきましたが、それがこのたび廃止になることが決まりました。そこで今回は、この法律を廃止するとどんな問題が起きるのかを議論したく、龍谷大学経済学部教授の西川芳昭先生をゲストにお招きしました。西川さんは種の専門家の学者ですが、意外にも種を専門に研究している学者さんというのは、日本ではとても少ないそうですね。

西川 そうですね。種のことを社会科学的に、あるいは科学技術社会論の立場から研究しているのは私だけでしょうし、政治経済学では京都大学の久野秀二先生が有名で、おそらくこの2人だけなのではと。

 研究者が少ない要因として、まさにこの種子法廃止の議論と重なってくる部分があります。この法律により、国が責任を持って供給してくれたから、我々は主食に関して心配する必要がなかった。だから日本では、自家採種や自然農法に興味を持っている方たちだけが議論をして、研究者も市民も意識しなかったのです。アメリカであれば、例えばウィスコンシン州立大学などは1980年代から種の南北問題、知的財産権に絡む問題を取り上げてきましたし、最近ではイエール大学なども大きなシンポジウムを開いています。またヨーロッパでは、オランダのワーヘニンゲンという欧州最大の農業系大学が一大拠点となり、種の自然科学と社会科学を総合的に研究している。逆に日本が特殊な状況だというふうに思います。

宮台 おっしゃるように、日本で種の問題が議論されないのは、公的な管理があまりにも当たり前だったので、安心しきっていたということに尽きると思います。世界を見れば、例えばザンビアがアメリカの食糧援助を受けるときに、遺伝子組み換え作物を拒否しました。あれだけ食糧に困っている国でも、食料安全保障の観点から、短期的には助かってもそれに依存することが如何に恐ろしいかがわかっている。日本人にはそうした理解がどれほどできているでしょうか。

神保 種子法の廃止については反対集会やデモなども起きており、一部では大きな問題になっています。しかし、マスメディアはほとんど取り上げていないように思います。だから、というわけではありませんが、そもそも種子法がどんな法律で、どのような役割を果たしてきたのかについての情報が、ネットを探してもほとんど出てきません。種子法で検索すると、種子法廃止反対のサイトやブログは出てくるのですが、種子法とは何かを説明してくれているサイトがほとんど出てこないんです。もちろん法律の条文は農林水産省のサイトには出ていますが、法律の条文を読んでも、その機能や、その法律がどのような役割を果たしてきたかはわかりません。そこで、まず我々は法律を読み込んだ上で、法律の内容とその機能をまとめてみました。

 主要農作物種子法は「米、麦、大豆の種子について、都道府県が普及すべき優良品種(奨励品種)を指定し、原原種と原種の生産、種子生産圃場の指定、種子の審査制度を規定する」もの。つまり、改良品種の原原種や原種の種を都道府県が管理し、安価で農家に提供することを可能にするための制度です。西川先生、この説明に過不足はありますか?

西川 まとめていただいた通りだと思います。国が都道府県に対して優良品種、奨励品種の指定と種子供給を義務付けています。その審査においては、県の改良普及員が生産されている圃場の状況も含めて、種子の品質を細かくチェックしながら、供給していく。それを規定する法律が種子法というものです。米、麦、大豆の優良な種子の生産と普及を促進し、適当な価格で安定して農家に提供することが目的であり、それが結果として、食糧安全保障につながるということです。

神保 聞き慣れない言葉がいくつかあるのですが、「普及すべき優良品種(奨励品種)」とはどういうものでしょうか?

西川 日本は南北に非常に細長く、平地もあれば中山間地もあります。そのため、まずはそれぞれの都道府県で、その風土に合った品種やニーズに応える品種をファインチューニングしていくわけですが、その中で「うちの県はこれでやりましょう」と決めていくのが奨励品種です。

神保 品種というのは、具体的にいうと「あきたこまち」とか「コシヒカリ」のようなものですか?

西川 そうですね。「あきたこまち」や「コシヒカリ」の場合は全国的な品種で、多くの県で奨励品種に指定されています。

神保 例えば青森のコシヒカリと、岐阜のコシヒカリは同じものですか?

西川 非常にいいご質問です。もともとは同じものでしたが、例えばコシヒカリは作られて60年くらいたちますから、各都道府県により、微妙に変わってきていると思います。それは育種家が意図的にやっている部分もあれば、コシヒカリが環境に合わせて変化している、という部分もあります。

宮台 「魚沼産コシヒカリ」が特に高いなど、産地によって価格も変わりますね。

神保 もうひとつ、種の話題でいつも出てくる「原種」や「原原種」という言葉がこの法律にも出てきますが、これは何なのでしょうか?


西川 「昔からある種」のことだとよく誤解されますが、そうではありません。種の世代を表す言葉です。新しい品種が試験場で開発され、配布される最初の世代が育種家種子、これを増殖した世代が「原原種」。そこから都道府県が指定の圃場などでさらに増殖したものが「原種」になり、各種の審査に合格したものが「認証種子」という形で農家に販売される「一般種子」となります。

神保 審査、認証するのは都道府県なんですね。結果的に、それが主食の安価で安定的な供給につながってきたということですが、これは事実上、国が管理しているという理解でいいのでしょうか?

西川 そうです。国の責務として都道府県が厳密な審査を行い、合格した種子だけが農家に渡されます。

神保 国が管理するがゆえに、予算も地方交付税交付金という形で、事実上国が負担してきたということですね。

宮台 ひとつだけ補足をすると、適正な価格で量的に安定して供給するプラス、原原種、原種の品質保持ということで、要は改良した品種、品種の同一性を担保するということも重要なポイントです。

西川 そうですね。さらに、もし冷害や台風などのトラブルがあっても、県に行けば原種や原原種として少量残されていて、そこから再増殖ができます。

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