――サブカルを中心に社会問題までを幅広く分析するライター・稲田豊史が、映画、小説、マンガ、アニメなどフィクションをテキストに、超絶難解な乙女心を分析。
『ドラえもん (1)』(てんとう虫コミックス)
私事にて恐縮だが、『ドラえもん』及び藤子・F・不二雄作品が死ぬほど好きである。好きすぎて、先日著書まで出してしまった(記事下部参照)。というわけで今回は若干の番外編として、『ドラえもん』に登場する3人の女子――しずか、ジャイ子、ドラミ――を、女子特有の3方向の類型パーソナリティに見立ててみよう。
1人目はしずか(源静香)だ。のび太の同級生で将来の結婚相手。無類の風呂好きヒロイン。いわゆる美少女枠である。ただ、しずかは「かわいい」だけで世を渡っており、ことさらそれ以外にはスペックも徳も高くない。バイオリンは下手だし、「委員長」になれるほどの優等生でもない。のび太がハブにされるスネ夫プレゼンツの別荘旅行にもちゃっかりついていくし、のび太がジャイアンとスネ夫にいじめられている際に沈黙を保つこともある。優等生の出木杉に気持ちがなびき、時折のび太に暴言を吐く。同性の友人も少ない。
決定的なのは、そんなしずかが結婚相手としてのび太を選ぶということだ。クラスのアイドルだった美少女が、学校一の劣等生と結婚する不自然さ。推察するに、彼女の目的は圧倒的な優位性の確保だ。のび太と結婚すれば、のび太は一生、自分を崇めてくれる。感謝してくれる。「かわいい」しか能のない、ほかにさしたる長所のない自分だが、のび太を伴侶とすれば、死ぬまで夫に対して優位性を保てる。非の打ちどころがなく社会的価値の高い出木杉が相手では、これがかなわない。自己研鑽を続けないと、出木杉は自分に見向きもしてくれなくなるからだ。