サイゾーpremium  > 特集2  > AVと女性の性欲、そしてポルノグラフィ/【腐女子】熟女セクシー女優×政治学者
1703_3toku01_520.jpg
ロビンマスク
「週刊少年ジャンプ」誌上にて1979~87年に連載された『キン肉マン』に登場する重要キャラ。筋骨隆々の超人たちが戦い合う同作は、BLの素材にもなりやすいという。

「BLとの出会いは『ビックリマンチョコ』で、『キャプテン翼』や『キン肉マン』でモンモンしてました!」と語る、ガチ腐女子のAV女優、井上綾子。オタクを標榜するアイドルやAV女優は珍しくなくなったが、彼女は1972年生まれの44歳、つまり、旧世代オタクなのだ。10代からマンガやアニメに目覚め、高校生のときにはすでに同人誌デビューを果たしていたという彼女はいま、「熟女AV女優」として活動を続けている。マンガやアニメ、はては実在の男性同士の同性愛描写を夢想し、そこに欲情してみせる腐女子という女性たち。彼女たちにとっての「ポルノグラフィ」と、男性向けポルノグラフィであるAVとは、どこで重なり、どこで異なるのか?その“あわい”に、気鋭の女性政治学者にしてガチの腐女子であるという田中東子・大妻女子大准教授が迫る。フェミニズムが解き明かす、腐女子とAVの「近くて遠い関係」とは?

 2015年に発売された『この美熟女はガチオタでした!』【1】というAV作品がある。熟女系AV女優の井上綾子がエッチシーンのはざまでオタク語りをして評判になったという。井上は、40代になってからAVデビューし、100本以上の作品に出演しているベテランだ。

 同作を実際に見てみると、男性の欲望によって構成されているポルノグラフィ世界のど真ん中で、オタク腐女子特有のあの早口で、女性のセクシュアリティについて特殊な用語で語り倒す井上の姿を確認することができる。

 といってもこの作品、序盤はごく普通のAVだ。布団の上で、小ぶりな乳房の井上と男優とによる、男性向けポルノグラフィが展開される。しかし男女の絡みが30分ほど経過したところで、突如、男性の監督と助監督が井上のオタク遍歴についてインタビューするシーンに切り替わる。

井上 世の中の腐女子の中には確かに、AVを見るように、「単に自分の好きな〔男性〕キャラが汚されたい!ほかにカップルになるキャラなんかいなくてもいい!モブのおじさんに犯されてほしい!」みたいな人っていっぱいいるんですよ。モブレが好きっていう人が。

監督 モブレ、ってなんすか?「レ」って?

井上 モブによる〔男性キャラの〕レイプ!

監督 あー、モブレ。

(『この美熟女はガチオタでした!』より)

「モブレ」の話など腐女子にとっては日常の挨拶程度にすぎないが、この場面の聞き手は男性、しかもAV作品の真っただ中。つまりこれは、極めて攪乱的な場面なのである。ドゥルシラ・コーネルによって書かれたポルノグラフィ論『イマジナリーな領域―中絶、ポルノグラフィ、セクシュアル・ハラスメント』【2】の言葉を使って定義するなら、AVとは「他者〔としての女性〕のセクシュアリティをコントロール」しているシステムだ。

 その男性中心的な世界のただ中で「自らの性とセクシュアリティを追及」(同書より)している井上の姿に、昨今の女性とポルノグラフィの関係について考える糸口があると感じて会ってみることにした。そもそも井上は、どのような経緯でオタク女子、そして腐女子になったのだろうか?

1703_3toku02_520.jpg
スカウター
「週刊少年ジャンプ」誌上にて1984~95年に連載された『ドラゴンボール』に登場する重要アイテム。ベジータをはじめ、フリーザ一味が使用していた。

井上 中学のときにはオタク友達とアニメを見ては同人誌を通販してキャッキャ言いながら交換して、即売会にも買いにいってました。つけペンを使ってマンガを描き始めたのも同じ頃。会費を払って小説やポエムを送ると冊子にして返してくれる会員制の同人サークルに入ってカットやイラストを描かせてもらったり。サークル主として初めて同人イベントに出たのは高1のとき。ビックリマンチョコをネタに、その男性キャラ同士のエロを描いてました。地元の同人イベントで知り合った4人組で合同誌を出して、イベントには半年に1回くらい出てたかな。ジャンルのオンリーイベントのために大阪まで遠征したり。短大に進んでからも、ビックリマンで活動していました。マンガ研究部に入ったのですが、ビックリマンというジャンルが特殊だったので、一緒にやってくれる友達はいませんでした(笑)。卒業後に就職して、そこからは“奇跡の5年間”。完全に同人活動から遠ざかっちゃったんです。

田中 生活が変わったり恋愛したりで、就職した直後に同人活動をやめちゃう人って多いですよね。結局ほとんどの人が出戻ってきちゃうけど(笑)。

井上 そうそう。私は主婦になってから出戻りました。5~6年働いたあと主婦になって、その1年目からまた描き始めたんです。家を掃除していてたまたまビックリマンの描きかけの原稿を見つけて、読み返したら面白くて。これは出さないと私の才能が泣くな、と(笑)。居間にいた旦那に、「これからBLマンガ描くからよろしく!」と宣言して、同人活動を再開したんです。

田中 同人イベントには今も出ているんですか?

井上 冬コミに出まして、『40過ぎてAVデビュー!!』【3】の2巻目を出したら完売しました。

ログインして続きを読む
続きを読みたい方は...
この記事を購入※この記事だけを読みたい場合、noteから購入できます。

Recommended by logly
サイゾープレミアム

2025年5月号

新・ニッポンの論点

新・ニッポンの論点
    • “分断の時代”に考える20年代の【共産主義と資本・自由主義】
    • 全国紙も報じた終末論【2025年7月人類滅亡説】のトリセツ
    • 世代を超えたカリスマ「SEEDA」の【アップデート&処世術】
    • 『GQuuuuuuX』で変わる!? ガンダムの【IPビジネス新戦略】
    • 教えて! 大﨑洋さん!! 逆風での船出「大阪万博」の愉しみ方
    • パレスチナのジェノサイドと【日本の難民問題】の深層にあるもの
    • さらば?芸能界のドン、【バーニング周防郁雄社長という聖域】
    • [週刊誌記者匿名座談会]憶測と中傷び交う中居・フジ問題の論点

NEWS SOURCE

インタビュー

連載

    • 【マルサの女】名取くるみ
    • 【笹 公人×江森康之】念力事報
    • 【ドクター苫米地】僕たちは洗脳されてるんですか?
    • 【丸屋九兵衛】バンギン・ホモ・サピエンス
    • 【井川意高】天上夜想曲
    • 【神保哲生×宮台真司】マル激 TALK ON DEMAND
    • 【萱野稔人】超・人間学
    • 【韮原祐介】匠たちの育成哲学
    • 【辛酸なめ子】佳子様偏愛採取録
    • 【AmamiyaMaako】スタジオはいります
    • 【Lee Seou】八面玲瓏として輝く物言う花
    • 【町山智浩】映画でわかるアメリカがわかる
    • 【雪村花鈴&山田かな】CYZOデジタル写真集シリーズ
    • 【花くまゆうさく】カストリ漫報
サイゾーパブリシティ