――サブカルを中心に社会問題までを幅広く分析するライター・稲田豊史が、映画、小説、マンガ、アニメなどフィクションをテキストに、超絶難解な乙女心を分析。
「赤名リカ女子」と呼ぶべきタイプの女性が、各世代に一定の割合で潜伏している。赤名リカとは、1988~90年に連載されたマンガ『東京ラブストーリー』のヒロインの名前。リベラルな帰国子女で、性に奔放。自己主張が強く、男にひざまずく気はゼロ。賢く有能で仕事はできるが、情緒は超不安定。愛が激しすぎるあまり男を束縛し、振り回し、とことん疲弊させる。要は「躁状態のメンヘラ女性」だ。
同作は91年、フジテレビの月9枠でドラマ化され、鈴木保奈美が赤名リカを演じた。今よりもずっと男性中心社会だった当時、赤名リカは一躍時代のアイコンとなり、ドラマは社会現象的に大ヒットする。
赤名リカの信奉者および潜在的ワナビーは、ドラマ放映当時に若手OLだったバブル世代(現在アラフィフ)の女性にとどまらない。彼女たちを「頼れる、デキる先輩」として慕う団塊ジュニア(現在アラフォー)や、彼女たちを「男社会で奮闘するジャンヌ・ダルク的上司」として崇めるポスト団塊ジュニア(主に30代女性)は、間接的ではあれ赤名リカをロールモデルとしているからだ。今回は、そんな赤名リカ女子に注目しよう。
参考書は、『東京ラブストーリー』のきっちり25年後を描いて昨年話題になった『東京ラブストーリー ~After 25 years~』。主な登場人物は25年前と同じ4人だ。シングルマザーの赤名リカ、25年前に赤名リカと交際するも振り回された挙句に離別した永尾完治(カンチ)、完治の妻・さとみ。かつてさとみと交際していた医師の三上健一である。
物語は、完治の娘とリカの息子が婚約してさあ大変……から始まるが、正直それはどうでもいい。何が恐ろしいって、つくづく男の人生は赤名リカ女子の「マーキング」によって大きく左右されるという事実だ。