日本有数の工業都市・川崎はさまざまな顔を持っている。ギラつく繁華街、多文化コミュニティ、ラップ・シーン――。俊鋭の音楽ライター・磯部涼が、その地の知られざる風景をレポートし、ひいては現代ニッポンのダークサイドとその中の光を描出するルポルタージュ。
ダンス・チームのKING OF SWAGを率いるDee(右)と、その弟であるYusei(左)。
ラップ・ミュージックはダンス・ミュージックでもある。リリックが過酷な現実を描き出す一方、ライムとビートはその中に漲る生命力があることを教えてくれる。
「KONNICHIWA」では、STUDIO S.W.A.G.の生徒たちもパフォーマンス。
「オレたちがはやらせたよ、この街にヒップホップを!」。2016年12月、同文化の新たなメッカとして知られるようになった川崎区を代表するラップ・グループ、BAD HOPは、躍進した1年を締めくくるべく川崎駅前のライヴハウス〈クラブチッタ〉でワンマン・ライヴを行ったが、クライマックスにそう叫んだ2週間後の年の瀬、実はもう一度、同じステージに上がったのだった。そして、その日、フロアを埋めていた観客は、前回よりもさらに若い子どもたちが目についた。首におもちゃのゴールド・チェーンをかけた少年、髪にピンクとパープルのリボンを編み込んだ少女。思い思いにめかした彼らが見つめる先で、リーダーのT-PABLOWがゲストを呼び込んだ。黄色いパーカーに格子柄のパンツで揃えた10人ほどの子どもたちが飛び出し、歓声を浴びながら可愛らしくも力強いダンスを披露する。ヒップホップはラップやダンスを含む総合的なものだ。川崎に同文化が根づき始めているのだとしたら、そこでは、BAD HOPだけでなく、このイベントを主催していたダンス・スタジオもまた重要な役割を果たしているだろう。