――2016年11月現在、今年の映画上位ランキングは東宝とディズニー配給作品によって完全に占められている。2社の快進撃に、死角はないのか?名物プロデューサーの社内での立ち位置、追随する他社の起死回生の一手、アニメ業界までも巻き込んだ、映画業界のヒットのウラ側を探る。
日本映画界・観客動員数と収益の変遷
この10年間の、日本国内における年間映画観客数(白)と興行収入合計(黒)の変遷。
震災の影響もあって11年に落ち込んだものが、徐々に回復しつつはある。今年はどちらも前年比を上回る見込み。
2016年、日本の映画界は近年まれに見る興行成績を記録した。牽引したのは言わずもがな『君の名は。』だが、その他の作品も善戦している。まだ1年が終わっていない11月上旬現在の数字ではあるが、現時点での今年の興行成績ベスト10作品は以下の通りだ(編集部調べ)。
1位 『君の名は。』(16年8月26日公開/東宝)
2位 『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(15年12月18日公開/ウォルト・ディズニー・スタジオ・モーションピクチャーズ)
3位 『シン・ゴジラ』(16年7月29日公開/東宝)
4位 『ズートピア』(16年4月23日公開/ウォルト・ディズニー・スタジオ・モーションピクチャーズ)
5位 『ファインディング・ドリー』(16年7月16日公開/ウォルト・ディズニー・スタジオ・モーションピクチャーズ)
6位 『名探偵コナン 純黒の悪夢』(16年4月16日公開/東宝)
7位 『妖怪ウォッチ エンマ大王と5つの物語だニャン!』(15年12月19日公開/東宝)
8位 『ONE PIECE FILM GOLD』(16年7月23日公開/東映)
9位 『信長協奏曲』(16年1月23日公開/東宝)
10位 『ペット』(16年8月11日公開/ユニバーサル・ピクチャーズ)
このランキングを見ればわかる通り、上位10作品のうち実に5作品が東宝配給、3作品がウォルト・ディズニー・スタジオ・モーションピクチャーズ(以下、ディズニー)配給となっている。ほぼ完全な2社による寡占状態で、2 0 1 6年は他社にとっては悪夢といっていい年だった。
「東宝ひとり勝ち状態」というワードはこの数年映画業界において蔓延しており、本誌でも映画特集を行うたびに何度となく唱えてきた。それが今年は一層極まった、といっていいだろう。同社が10月に発表した17年2月期の連結純利益は前期比28%増の330億円と見込まれ、過去最高益に達することとなりそうだ。当初は20億円程度と想定されていた『君の名は。』が171億円と予想を大きく上回り、邦画史上に残る偉大な興行成績を打ち立てている。加えて『シン・ゴジラ』(79億円)は完全自社製作となっており、利益幅も大きい。 この20年弱で主流になっていた製作委員会方式(詳細記事『製作委員会から見る邦画ビジネスの実態』)を採用しなかったことが、庵野秀明監督の撮りたい特撮作品を成立可能にし、結果としてヒットにつながった――という可能性は、公開直後から各所で指摘されていた。