――明治以降、“露骨で卑猥なもの”として公には拒絶されてきた春画だが、そこには日本文化における性に対する特色が数多く込められている。今回、春画が提示する数ある性問題の中から、動物と人との交わりを描いた”獣姦図”にスポットを当て、その意味を追ってみたい。
葛飾北斎『喜能会之故真通』より「蛸と海女」(画像提供/国際日本文化研究センター)
2007年にアメリカで公開された、『ZOO』というドキュメンタリー映画をご存じだろうか。同作は、40代のアメリカ人男性が馬とアナルセックスをし、内臓損傷して死亡したという事件にもとづく社会問題を追った作品だ。その性交シーンが“エログロ動画”として流出したことから、ワシントン州議会では獣姦の撮影を禁止する法案が可決。その後、ヨーロッパでも続々と“獣姦の違法化”が進められてきた(こちらの記事参照)。日本においては、そのテーマを議論する以前に、「獣姦シーンがグロすぎて日本人は見たがらない」(某映画配給会社社員)との理由から、『ZOO』は公開されなかったという。
ところが歴史を振り返ると、日本には他国に比べて獣姦について“寛容だった”とも取れる美術作品が数多く残されている。そのひとつが、江戸時代に隆盛を極めた浮世絵の春画だ。例えば、上に掲載する葛飾北斎の「蛸と海女」(『喜能会之故真通』より)は、“世界一有名な獣姦絵”といっても過言ではないだろう。19世紀にヨーロッパで興ったジャポニスムにおいて、当時の西洋画家たちは、この大蛸が海女の体に足を絡ませながら陵辱する絵に、大きな衝撃を受けたといわれている。旧約聖書の食物規定によって「汚らわしいもの」とされた蛸は、欧米諸国で古くから「悪魔の魚」と呼ばれてきた。そんな“悪魔”の触手によって女性が犯されるというセンセーショナルな表現に強いインスピレーションを得た西洋の画家たちは、20世紀最大の巨匠パブロ・ピカソをはじめ、こぞってこの名画を模写したのだ。