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神保哲生×宮台真司「マル激 TALK ON DEMAND」 第117回

【神保哲生×宮台真司×多田 将】物質最小単位ニュートリノで宇宙の起源がわかる

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――ビデオジャーナリストと社会学者が紡ぐ、ネットの新境地

[今月のゲスト]
多田 将[高エネルギー加速器研究機構准教授]

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『ニュートリノ』(イースト新書Q) 

8月6日、「ニュートリノ」の「粒子」と「反粒子」の変化に違いがある「CP対称性の破れ」の兆候を初めて捉えたと発表された。これが確認されれば、宇宙の起源の解明にもつながる……が、実際、なんのことかよくわからない。今回は、いつもと趣向を変え、なぜ、物質最小単位から壮大な宇宙の起源が解明されるのか、を見ていこう。

神保 今回は、科学の分野で大きな話題となっている「ニュートリノ」を扱います。僕にとっては、ややハードルの高いテーマですが、宮台さんは少年時代から『ブルーバックス』(講談社刊行/自然科学を一般向けに解説する人気シリーズ)を愛読していたくらいですから、こういう分野はフォローしていますよね?

宮台 この後で紹介されるような、新しい発見のニュースがあると、発作的にブルーバックスのようなものを買って読む、という習慣があります。最近はNHKのEテレが良質な科学番組をつくっており、インターネットでアーカイブスが観られるので、チェックしています。

神保 僕としては、ニュートリノがなんなのかということさえ、よくわかっていません。そもそも、なぜ物質をどんどん細かくしていくと宇宙の起源がわかるのかが、不思議でならないのです。宮台さんは、そのことに違和感はないのですか?

宮台 日常的な感覚に照らせば、違和感ありまくりです。例えば「誕生したばかりの宇宙は原子よりも小さかった」なんて、意味がわかりません。以前、惑星物理学者の松井孝典さんをお招きしたときも、ありそうもない奇跡のような極小確率の偏差が重なって、物が存在しているとか、僕たちが存在しているという話を伺いました。

神保 今回は「すごく小さいがゆえに、すごく大きな話」ということでしょうか? 僕らだけでは一向に話が進まないので、専門家の先生の助けを借りましょう。ゲストは高エネルギー加速器研究機構・素粒子原子核研究所の准教授で物理学者の多田将先生です。

 先日、高エネルギー加速器研究機構(茨城県つくば市)が行ったある実験が、大きなニュースになりました。「高エネルギー加速器研究機構が、物体をすり抜けて飛び交う素粒子ニュートリノの粒子と反粒子の変化に違いがある『CP対称性の破れ』の兆候をとらえたと、米シカゴで開催中の、国際学会で発表した」というものです。

 僕はこのニュース原稿に出てくる単語が、半分以上わかりませんでした。

多田 僕はむしろ、お2人はよくご存じのほうだと思います。うちの母親など、「原子“核”研究所」という名称から、僕が核兵器の研究をしていると思っていますから(笑)。一般的には、おそらくそのような認識だと思いますし、今回は、そういう方にも伝わるようにお話ししたいと思います。

神保 早速ですが、今回の実験で何が起きたのかを簡単にご説明いただけますか?

多田 僕たちの実験には「T2K実験」という名前がついているのですが、これはどういう実験かというと、まず茨城県東海村にある実験施設でニュートリノを人工的につくり、それを300キロ離れた岐阜県神岡町まで飛ばす、というものです。神岡町にあるニュートリノ検出器「スーパーカミオカンデ」でそれを検出し、300キロを飛んでいる間にどのような変化が起こるか、ということを調べるのです。

 ニュートリノは生まれた瞬間に、光速に近い速さで動くのですが、それをつくる際に、うまく向きを合わせることで、神岡町のほうへと飛ばすのです。実験では地中を飛ばすのですが、普通に考えたら、地面にガンガン当たってなくなりそうですよね。ところが、ニュートリノにはある非常に特殊な性質があるため、岩石なんて簡単に通り抜けてしまいます。

宮台 ちなみに「T2K」というのは、「Tokai to Kamioka」という意味ですね。

神保 「カミオカンデ」という名前も気になっていました。神岡町のカミオカはわかりますが、だとすると残りの「ンデ」は何なのでしょうか。

多田 元々は「Nucleon Decay Experiment」(核子崩壊実験)の略から来ています。

神保 なるほど、「NDE(ンデ)」だったんですね。

多田 今では「Neutrino Detection Experiment」になっていますが、Nがニュートリノを表していると思っていただければ結構です。スーパーカミオカンデは、ニュートリノをつかまえる検出器で、簡単に言うと水のタンク。直径40メートル、高さ40メートルで、5万トンの水をたたえた、巨大なタンクです。

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