――5月に刊行された『昭和芸人 七人の最期』(文春文庫)というノンフィクションがある。昭和の一時代を築いた芸人たちの晩年をまとめた力作を記したのは、1979年生まれの若き演劇研究者だ。芸人はいつ、どうやって死ぬのか? この不安は、お笑いファン・バラエティ好きなら共感できるものだろう。昭和芸人の例を踏まえながら、芸人が年を取る難しさの理由を氏に紐解いてもらった。
笹山敬輔氏。(写真/北川泉)
──笹山さんは『昭和芸人 七人の最期』のプロローグで、「自らの価値観を形成する上でダウンタウンの影響が圧倒的だったという自覚がある」と書かれるほどのダウンタウンファンなんですよね。そんな彼らの“晩年”や“引退”を迎える姿を見ることが怖いという理由から、昭和の芸人たちの最期について書くことでその不安を和らげたかった──と、執筆の動機を書かれていました。ダウンタウンの最後を心配するようになったのは、何かきっかけがあったのですか?
笹山敬輔(以下、笹山) 特にここ数年、彼らがバラエティ番組などで少しでも引退を匂わすような発言をすると、すぐに話題になりますよね。例えば浜田さんが「そんなに長くやりたくない」とか「いつかやめたい」と言っただけでネットニュースになったり。松本さんも30代のうちから「いずれ引退する」「長くはやらない」と、けっこう言ってらっしゃった。最近は、たけしさんも自身のテレビ番組で「引退するかどうかは、自分で客前へ出て計る。ウケなかったらもうダメだと思う」ということを仰っていて、すぐに記事になっていた。そういうふうなものを見るにつけ、より気になるようになってきて。
──彼らクラスになると、ウケる/ウケないの判断も難しくなりそうです。
笹山 何をもって「ウケなくなった」と判断するのか、難しいところではあります。芸人さんの活躍の場がテレビである限り、テレビで姿を見なくなったり、出演番組の視聴率が少しでも悪くなると、「つまらなくなった」とか「飽きられた」などと言われやすい商売ではあります。歌手だったら、何年もヒット曲が出なくても、北島三郎や和田アキ子は「歌が下手」とは言われない。だけど芸人は視聴率が取れなかったり人気がない、イコール「つまらない」、と言われてしまいますから。だから、最前線でやっていればいるほど、いつまでも今のままではいられないだろうという恐怖感を覚えて、そういう発言をされるのかと思います。
──著書の中で、「芸人は人気を失った時、即座に『面白くなくなった』という評価が下る。お笑いには、観客の笑い声という明らかな指標がある」と記されていましたが、テレビで直接観客の反応を見ることは少ないですよね。昭和の、演芸場や劇場が中心だった時代は、今より辞め時を判断しやすかったのでしょうか?