――サブカルを中心に社会問題までを幅広く分析するライター・稲田豊史が、映画、小説、マンガ、アニメなどフィクションをテキストに、超絶難解な乙女心を分析。
4月からの新生活といえば家具、家具といえばIKEA。IKEAに足を踏み入れてみると、家族連れと同じくらいカップルが多い。つまり「IKEAデート=僕と君の未来シミュレーション」であり、「このソファ、密着度すごーい」「セミダブルだと狭いね(ハート)」的な妄想イチャイチャが、店内各所で繰り広げられているのだ。
そんなIKEAデートが印象的に描かれているのが、映画『(500)日のサマー』。気まぐれ女サマーに惚れてしまったナイーブな男・トムが、彼女の一挙一動に振り回される被害報告話だ。説明するまでもないが、サマーは「誰もが二度見するほどカワイイ女子」であり、「自分がカワイイことを知っている女」である。チッ(舌打ち)。
実は本作、「サマーみたいな女を許せるか問題」「IKEA手つなぎデート問題」といったクリティカルな論点で、男女の意見が思い切り割れることでもよく知られている。特にアラサー未婚男女数人で鑑賞会などした日には、その後の宅飲みで議論が紛糾し、「朝まで生サマー」状態になること必至。対立構図としては大方、男が「サマーみたいなクソビッチは社会の害悪だから死ね」と激昂、女は「その程度のことで勘違いする男が幼稚」とせせら笑う、といった感じだ。
男からすれば、サマーの犯した罪は重い。彼女は喜々としてトムとIKEAで手つなぎデート。一緒にポルノビデオを観たあとシャワールームでセックスし、「ここまで(自分のことを)話したのははじめて」と言ってトムを喜ばせる。