――単価の高い単行本が売れれば、会社に数億円の利益をもたらすのが文芸の世界。そのため、多くの出版社にとって作家のゴシップはタブーとなっている。そこで本稿では、出版界の一大権力である文壇の裏側を、関係者にこっそり聞いてみた。
文藝春秋、新潮社、講談社……と版権が転々とした『三匹のおっさん』の講談社版サイト。
【座談会参加者】
A:30代・大手出版社編集者
B:40代・大手出版社編集者
C:30代・中堅出版社編集者
A 文芸特集ということで、書籍編集部がある出版社ではタブーとされている、人気作家や文芸界のあれやこれやを語ってほしいとのことだけど、実は最近は作家のほうもコンプライアンスにやたらと敏感なので、さほどネタはないんだよね。とりあえず昨今、一番の話題作といえばピース・又吉直樹の『火花』【1】だろう。昨年12月時点で240万部と、芥川賞受賞作の中でも歴代1位の発行部数を記録している。
B 今年4月に映像化も決定しているから、まだまだ伸び続けるだろうね。
A 又吉は、『火花』の売り上げだけではなく、ほかの文庫本の売り上げにも波及効果を及ぼしている。太宰治をはじめ、又吉がテレビで過去の文豪たちを紹介することで、本屋の文庫本売り場が動くこともしばしば。そんな又吉効果からか、なぜか急に三島由紀夫のマイナーな作品『命売ります』【2】が脚光を浴びている。版元では、昨年7万部の増刷をしたそうだ。
C 映像化されたわけでもないのに、めぐりめぐっての又吉効果かな? 又吉とは関係あるかないかわからないが、筒井康隆の『旅のラゴス』(新潮社)も1994年の作品なのになぜか突然売れ始め、10万部の大増刷となった。何が売れるかは本当に読めない時代だよ。
A 又吉は本の帯でもひっぱりだこだね。僕が携わった本も、又吉が帯を書いたら、飛ぶように売れたことがあった。
C だから、さっきから又吉を絶賛していたのか(笑)。
B 今、書籍絡みで一番強いのは、又吉とマツコ・デラックスだろう。文芸書ではないけど、マンガ『翔んで埼玉』(宝島社)は、『月曜から夜ふかし』(日本テレビ)でマツコ・デラックスが絶賛したところ、30万部を突破する勢いになった。今まで、帯文の世界では爆笑問題・太田光の影響力が強かったけど、影響力という意味では又吉、マツコ、西加奈子あたりに世代交代が進んでいる印象だね。