――宗教と直結する話ではないが、日本に住むイラン人と聞いて、ついドラッグの密売人を連想してしまう読者もいるだろう。だが、この10年でイラン人と薬物をめぐる状況は大きく変化したという――。
2015年12月、20代のイラン人男性が名古屋市内の市道を自動車で走行中、外国人とみられる複数の男から集団暴行を受けて死亡した。その現場近くからは注射器数十本が見つかり、ドラッグの密売をめぐるトラブルの可能性もあると報じられたが、襲撃グループはいまだ逃走している。そのため、事件の真相は明らかになっていないものの、誤解を恐れずに言えば、確かに売人は日本で暮らすイラン人のイメージのひとつになっているかもしれない――。そこで、本稿では、数々の薬物事犯を担当してきた弁護士の小森榮氏に話を聞きながら、イラン出身のドラッグ密売人について掘り下げていきたい。
そもそも、彼らはいつ頃から日本のドラッグ市場に姿を現したのだろうか?
「イラン人が日本でドラッグの密売を始めたのは、バブルが崩壊した90年代初頭といわれています。それまで出稼ぎで日本に来ていたイラン人労働者の多くが景気後退によって仕事を失い、一部がアングラに潜り始めたのです。そして、ポケベル・ブームに合わせた偽造テレホンカードや、各種の薬物を密売するようになりました」