――アメリカの音楽を語る上で、宗教との密接な関係性を除外するわけにはいかない。本稿ではイスラム教をはじめ、ユダヤ教/キリスト教/仏教徒の音楽的特徴や文化的差異を、主にヒップホップを軸に据えて紐解いてみたい。するとそこには、意外な相利共生の事実が……!?
(絵/我喜屋位瑳務)
「メイク・ミー・セイ、ナンミョーホーレンゲーキョー」――「え、今、なんてラップした?」と思って、慌てて聴き直してしまった人も少なくないだろう。目下、話題沸騰中で、今号が発売する頃にはリリースされているであろうカニエ・ウエストの最新アルバムに収録予定のシングル「No More Parties in L.A.」で、確かにそう歌われて(唱えられて)いる。しかし声の主は、当のカニエではなく、フィーチャリングで参加し、今年のグラミー賞で最多ノミネートされていることでも注目を集めるケンドリック・ラマーだ。〈南無妙法蓮華経〉という言葉は、日蓮宗の勤行で唱えられる文句だが、意外にもアメリカでは、ラップに限らず、幾多のアーティストの歌詞に組み込まれてきた。ただし、このケンドリックの場合、文脈的にいえば、勤行ではなく「意識を一点に集中させたい」という意味合いのもと、使用していると受け止められる。
アメリカの人気テレビ番組『ピンプ・マイ・ライド~車改造大作戦!~』のホスト役として知られるラッパー、イグジビットも、シングル「Concentrate」(06年)のサビで「南無妙法蓮華経」と何度も繰り返し、タイトルの意味のごとく、「集中だ! 集中だ! 集中だ~!」と唱えているが、実際はギャルに気を取られて集中できないというオチがある(ちなみにイグジビットの宗教はエホバの証人だったが、現在は創価学会インタナショナルに所属しているといわれている)。海外の動画サイトでは、約1500万PVをたたき出しているものの、「Concentrate」はヒットチャートに並ぶことはなかった。つまり、これは「南無妙法蓮華経」の威力と、信者の閲覧によるものと推察することもできるのだ。