――ビデオジャーナリストと社会学者が紡ぐ、ネットの新境地
『普天間移設 日米の深層』(青灯社)
[今月のゲスト]
松元 剛[琉球新報編集局次長]
沖縄を力でねじ伏せようとする安倍政権──。普天間基地の辺野古移設をめぐり、ついに政府は11月17日、沖縄県の翁長雄志知事を相手取り、法廷闘争に打って出た。無論、多数の批判が報じられる中、琉球新報編集局次長の松元剛氏は「国に盾突いた自治体を許さない」ということを示す、非常に危機的な問題だと断罪する──。
神保 今回のテーマは、宮台さんもずっと関心を寄せてこられた沖縄です。ついに政府と沖縄の辺野古の新基地建設をめぐる争いが、法廷闘争に発展しました。政府は11月17日、沖縄県の翁長雄志知事が辺野古沿岸域の埋め立て承認を取り消したことに対し、これを撤回させるための強権的な措置として、沖縄県を提訴しました。この番組では、辺野古の問題を“沖縄の問題”としてではなく、日本全体の問題としてとらえなければならないという点を強調してきましたが、解決をみることのないまま、ついに行き着くところまで行ってしまった感があります。
宮台 日米安保条約は、安保条約運用のための日米合同委員会と、日米地位協定とを含んだワンパッケージですが、事実上、安保条約の負の部分――簡単に言えば危険を背負う部分――を全面的に沖縄に押しつけています。憲法9条、安保条約、日米地位協定、日米合同委員会というワンパッケージが、沖縄の犠牲の上に成り立っているのです。
こうした状態で9条護憲平和主義を語るのも、重武装中立化を語るのもありえません。どちらも、沖縄基地の内地移転を進め、僕たち内地人居住地の隣接地に基地があるという前提で語らなければなりません。さもないと卑怯で、卑怯者に愛国を語る資格はない。
神保 この問題は、普天間の代わりになる新基地をどうしても沖縄に作らなければならない安全保障上の必然性がないにもかかわらず、計画だけが進んでいくという点で、安保法制と似ていますね。安保法制も、法律の効果や必要性がないことは国会審議を通じて明らかになっていますが、安倍政権にとっては、とにかくそれを通すことに意味があったと。
手元に「国、知事を提訴」のニュースを伝える17日の「琉球新報」の号外があります。今回は急きょ、東京にいらっしゃっていた琉球新報編集局次長の松元剛さんにお越しいただきました。細かいことを伺う前に、このニュースも含めて、現在の沖縄はどういう状態ですか?
松元 ちょうど1年前の11月16日に知事選挙があり、翁長さんが埋め立てを承認した仲井眞弘多さんに約10万票の差をつけました。強い民意が示され、翌月12月の衆議院議員選挙でも、4選挙区で自民党の辺野古移設を容認する候補者が全敗を喫した。
つまり民主主義の中で、沖縄の有権者は最大限のアピールとして、「辺野古NO」という意思表示をしたのです。それから1年、翁長さんは公約を実現しようと奔走していますが、安倍政権は一顧だにしません。そして今回、「強権」の極限のようなものを切ってきた。
ですから、沖縄県内の反発は強いと思います。実際、この提訴を受けて18日、辺野古で集会が行われると、主催者側が見込んだ500人を大幅に上回る、1200人が集まりました。しかも平日の早朝、那覇からバスに乗っても2時間かかる辺野古にです。これは95年の少女乱暴事件でもなかった現象で、単に反発ということだけでなく、「安倍政権のやりたい放題にさせてしまっては、自分たちの尊厳、アイデンティティが著しく傷つけられてしまう」という、いわば誇りをかけた形の抵抗運動になっているように感じます。
宮台 そのことで、沖縄県民は、辺野古問題について日本政府と闘いやすくなったと思います。逆に、日本政府は、「正当性」という点でも「当事国であるアメリカを含めた他国からどう見えるか」という点でも、自分を弱い立場に追い込んでしまいました。 当初は安全保障上の合理性つまり地政学的な理由があると思っていたところが、それはさしたるものではなく、やはり沖縄に対する差別感情がベースになっていること。そのことに、ほぼすべての沖縄人と多くの内地人が気づきました。
それゆえに、「安全保障上の理由から基地を置かせてやるかわりに交付金をもらえばいいや」という損得勘定のバーター取引では、覆い隠せない尊厳の損壊が生じているというふうに、ほぼすべての沖縄人と、多くの内地人が受け止めるようになりました。これまでは、国交省の役人に「基地があるおかげで云々」と馬鹿にされてしまうような行動を、現に沖縄県民がしていました。仲井眞さんや稲嶺恵一さんを知事に選んだことが、その象徴です。
無論「どうせ基地が存続し続けるなら、見返りをもらおう」というのは合理的で、「基地が存続し続ける」と思わせたのは内地の人々の責任です。でも「基地がないとお金がもらえない」という沖縄人も多数いたのは事実で、それが2人の知事に象徴されます。
神保 つまり、沖縄県民も米軍基地を引き受けることに正当な理由があると思っていた。
宮台 そうです。ところが、そのバーター取引図式を内地の政府が壊してくれました。これで、沖縄人が一丸になって闘える状態に近づきました。政府が「沖縄県民の意思など、どうだっていい」と、明らかな差別をしてくれたからこそ、与えられたチャンスです。
松元 差別というのは、その通りです。埋め立ての承認取り消しは、選挙公約で民意の負託を得た上での知事の判断であり、しかも専門家による第三者委員会により膨大な報告書を作り、環境保護のための手立てが尽くされていないことも綿密に検証するなど、行政的な手続きを尽くした上でのものでした。安倍政権は、それを問答無用に切って捨てたのです。
そうなると、沖縄県民は「簡単に組み敷かれるわけにはいかないぞ」と考える。まさに尊厳をかけた闘いで、これまでは様子見をしていた県民たちも、「ここまでやられるなら、声を上げなければいけない」という空気感になってきていると思います。