――施設整備や外国人観光客の来日などにより、プラスの経済効果の発生が期待されている2020年東京五輪。一方で法律の側面では、その経済効果を高めるべく、さまざまな規制緩和が進行中だが、そこには多数の問題点が指摘されているという。五輪を視野に入れた法整備の現状と未来予測を、当該分野に詳しい弁護士や専門家に聞いた。
『2020 狂騒の東京オリンピック』(日経BP社)
五輪の商業化が顕著になった1984年のロサンゼルス五輪以降、開催地で生まれる経済効果や、街の変化に注目が集まるようになった。その一方、円滑に五輪を開催するため、さらには五輪後を見据えた展望を含め、法律面でもさまざまな変化が起こっている。そこで、東京五輪に関連して行われる法整備について、弁護士法人アヴァンセリーガルグループの山岸純弁護士、渡部貴之弁護士に話を聞いた。
「観光客が大挙して訪れる五輪では、入国、交通、飲食、宿泊などの分野で、さまざまな規制緩和が行われると考えられます。また、五輪に向けて多くの施設が整備される中では、建築に関わる基準の緩和もあるでしょう。すでに緩和が進んでいるものもあります」(山岸氏)
一体どのような規制緩和があるのだろうか? 順を追って確認してみよう。
まず外国人の入国にかかわる問題では、特に“五輪を見据えて”と銘打ったわけではないが、近年はビザの発給要件の緩和が進んでいるという。
「2013年には、タイ国民に対して『IC一般旅券を所持する者に対するビザ免除措置』が行われたほか、マレーシアやカンボジアなどにもビザ要件の緩和が実施されました。14年にも、インドネシア、フィリピン、ベトナムなどに数次ビザ発給要件の大幅緩和が行われていますね。五輪までの期間に、今後もさらに入国の規制緩和が行われる可能性はあるでしょう」(渡部氏)
中国人らによる“爆買い”をはじめ、アジア圏から訪れる観光客の増加に対応したものだろうが、東京五輪開催時に訪れる観光客の数は通常の何倍にもなる。
「何も対策をしなければ、在外公館、在外大使館はパンクしてしまうでしょうから、五輪期間中はビザなしでの滞在が認められるかもしれません」と山岸氏は分析する。
実際のところ、朝日新聞10月31日付の記事では「リオデジャネイロ五輪を来年に控えたブラジルで、外国人観光客に必要とされるビザが、五輪期間中は免除される見通しとなった」と報じられた。
そのほか、五輪の名前を冠した法律も、すでに整備されている。
「それが『平成32年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会特別措置法』(特措法)。これは五輪を円滑に進めるための基本方針を定めたり、国有財産の無償使用を認めたりするものです。無償使用される国有財産には、陸上自衛隊朝霞訓練場、皇居外苑、北の丸公園が指定されており、競技会場や式典などへの利用が想定されます」(渡部氏)