――サイゾーでは“スカトロ先生”としてお馴染みの哲学者・三浦俊彦先生が、久しぶりにカムバック!ますます冴え渡る哲学的直観力を武器に、「自然」という深遠なるキーワードで「スカトロAV」の概念分析を決行!
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あるときは、“寄生虫学者”として知られる藤田紘一郎氏、鬼才映画監督・井口昇氏との鼎談企画「医学的哲学的、文明論的スカトロ座談会」(2007年9月号)。またあるときは、元AV女優の文筆家・峰なゆか氏、スカトロAVメーカー社長氏との鼎談企画「驚愕の『大便鼎談』」(11年12月号)。そしてまたあるときは、今はなき有名スカトロ雑誌『お尻倶楽部』(三和出版)の名物編集者らとの鼎談企画「疲弊する我らがエロ本業界でスカトロ雑誌はいかに戦うべきか!?」(14年2月号)などなど……。
これまで本誌で、ウンコについて極めて真面目に語る数々の企画に出演しては名を馳せてきた、あの名物“スカトロ”哲学者、三浦俊彦・東京大学教授が、久々に本誌に登場! 「自然と科学」をテーマとする本特集において、「自然」という概念をキーワードに、「スカトロAV」を微細に分析してみせるという壮大な企画に挑戦することとあいなった。哲学とウンコが交わる交差点のその脇で、風に揺られながら咲く一輪の花のように、繊細かつ味わい深い本記事、刮目してご覧あれ!
「糞便移植」という医療が注目されているようですね。命にかかわる潰瘍性大腸炎を治すため、健康な人の大便を患者の腸内にチューブで移植するんだとか。ふ~む。抗生物質も効かない難病をウンコパワーが解決するという……いやはや科学は自然パワーをとことん開発してくれるものだなあ。
などと感心している場合じゃないでしょう、我ら文科系は。どうしていつも理科系に先を越されてしまうのか。マルセル・デュシャンが便器を高級芸術に昇格させてかれこれ100年、シモネタじゃ負けない自信がありながら、実践じゃなんだかんだで理科の連中に後れをとりっぱなし。こんなことだから国立大学は文系をリストラだのなんだの、国にナメられるんだよな。
こうなったら本気出そうじゃないですか。自然科学が物質の解明で先んじるなら、文系は概念の体系化でひっくり返して魅せよう。ウンコの自然オーラを徹底分析し、ポスト糞便移植の文化再編を先導いたそう。まずは芸術界でウンコを美的に主題化してきたあの分野、スカトロAVにおける多彩な自然を手掛かりに。
鬼才ジェラルド・ダミアーノ監督のもと、ジェイミー・ギリスの怪演が光る『ウォーターパワー』。1977年、アメリカの作品である。
まずはヤラセなしかどうかですね、映像的自然度の基本軸は。明白な脱糞シーンを含む映画は『ウォーターパワー』(1977年)が最初かと思いますが、トイレ本物盗撮の商品化は10年以上遅れました。ハンドカメラや電波機器など技術的成熟を要したからですね。さらに10年遅れてヤラセ盗撮の隆盛を迎えますが、当初は巧みに本物盗撮を装っていたのが、常連モデルの変装メイクも次第に雑になってきて、虚構性を隠そうとしなくなりました(欺自然→戯自然。このフェイクドキュメンタリー化傾向は、心霊ビデオの歴史と並行しています)。司法当局の手前もあるし、マニア向けリアリティが犠牲になるのは必然の流れと言えますが。
もうひとつ重要な軸は、ブツそのものが健康かどうかって軸です。糞便移植ドナーとしてさぞ適格な健康大便を、本来的自然という含みで「本自然」【1】と呼びましょう。