――毎クール、半分以上のテレビドラマが警察ものになる昨今。本が売れない時代でも相変わらずミステリは売れ続けており、そんな作品が映画やドラマになることも。現代の犯罪捜査の裏には、必ず科学捜査があり、それを司るのが法科学だ。それらはエンタメ作品とどうかかわってるのか?
今では15年も続くロングシリーズとなった『科捜研の女』。沢口さんも、かなりの貫禄が……。
──今回は、海外ドラマに造詣の深い作家・翻訳家の堺三保さん(以下、堺)と、ゲームクリエイターにしてライターの米光一成さん(以下、米光)に「法科学とエンタメ」というお題でお話しいただきます。まずは、そもそも法科学的な視点がエンタメ作品に導入されたのは、いつ頃なのでしょうか?
堺 古典的な法科学ネタである「指紋」に言及したという点で、コナン・ドイルの「シャーロック・ホームズ」(1887~)までさかのぼることができます。実際にイギリスで指紋が証拠として採用されるようになるのが1901年なので、ホームズのほうが先なんです。
米光 確かに『指紋を発見した男──ヘンリー・フォールズと犯罪科学捜査の夜明け』【1】によれば、最初に指紋の概念が発見されたのは17世紀。そのフォールズは、宣教師として日本に来ていて、縄文式土器に残された指紋を見て、人それぞれ指紋が違うことがわかり「使える!」と思ったとか。
堺 ホームズ以降、続々と探偵小説が出版されますが、その最初期の作品のひとつに、オースチン・フリーマンの「ソーンダイク博士シリーズ」があります。1907年の第1長編『赤い拇指紋』【2】が、指紋が正式に認められて以降、初の科学捜査ものだといえると思います。
──そうした小説の存在があって初めて、現代の科学捜査系エンタメがある、と。
堺 近年の科学捜査ものの盛り上がりは、海外ドラマ『CSI:科学捜査班』【3】(以下、『CSI』)に端を発しますが、このブームの直接的なルーツは、トマス・ハリスの「ハンニバル・レクターもの」でしょう。決定打となったのが、88年に発表されたシリーズ2作目の『羊たちの沈黙』【4】。そして、その直後にパトリシア・コーンウェルの「検屍官ケイ・スカーペッタシリーズ」【5】(90年~)が始まる。
米光 そのあたりから、犯罪の性質から行動科学的に分析し、犯人の特徴を割り出していくプロファイリングのブームが始まります。