――山一抗争勃発時は、実話誌やヤクザ系専門誌も多数発行され、圧倒的な売り上げを誇っていたという。そして現在、山口組分裂騒動が巻き起こり、雑誌不況で風前のともしびとなった各週刊誌が、にわかに活気づいている。なぜメディアはヤクザを追うのか? ヤクザ報道の歴史と変化を追いつつ、その謎を紐解いてみた。
(絵/我喜屋位瑳務)
■暴力団との関係性で表に出せないネタも
実話誌
毎週のように山口組関連の記事を掲載している実話誌では、今回の分裂騒動でも「司六代目は執行部や直系組長に、“こういった時期だからこそ、家族を大切にするように”(略)というように、組員の身内を気遣う言葉も掛けている」「山口組にすれば、ヤクザの基本である盃を軽んじた大義のない行動ということになるのだが、司六代目は、それをも自らの不徳とし、広い度量を見せている」(週刊大衆9月21日号)などと報道。山口組礼賛記事を乱発している様子は、時に「ファンクラブ」と呼ばれるほど。そのため、最も深い情報に精通しているものの、しがらみが多く、掲載できない情報も……。
■ブームに便乗してとんでも報道も連発!?
一般週刊誌
警察側、暴力団側、双方と距離を置く一般週刊誌が最も冷静な報道をしているのか……と思いきや、必ずしもそうとは言い切れない。さまざまなメディアで、暴排条例施行以降、コンプライアンスの問題から特に大手出版社系の媒体で暴力団との密な関係を築きにくく、情報を得にくくなっていると指摘されている。今回の分裂報道では、「会合の場所にドローンを飛ばして爆破する」(「週刊ポスト」9月11日号)といった噂レベルの話まで報道。なお、この記事に対して、「週刊大衆」(双葉社)10月12日号では「ここまで来ると、漫画(の世界)やで」と一笑に付している。
■現場取材なく、大本営発表を垂れ流す
新聞・TV
回の件でも「警察は情報収集を急ぎ、幹部の摘発などさまざまな手段で壊滅を目指す必要がある」(朝日新聞9月3日付)など、「暴力団は社会の敵である」という姿勢を貫く全国紙。しかし、警察発表のみによる報道姿勢には、「警察による世論操作」という批判もあがっている。作家の宮崎学氏は、08年5月9日の「週刊実話」別冊号で「現場と当事者への取材はほとんどされていない」「もっぱら『暴力を許すな』といったわめき声に近い報道」と厳しく批判している。なお、暴排条例施行後の11年10月1日、翌2日の産経新聞には、山口組六代目・司忍組長のインタビューが掲載されている。
8月に巻き起こった分裂騒動を受けて、テレビ、新聞などのマスメディアをはじめ、一般週刊誌、そして常に暴力団の動向を追ってきた実話誌など、さまざまなメディアで山口組に対する報道が過熱している。2010~11年にかけて全国各都道府県で「暴力団排除条例(暴排条例)」が制定され、「人権がない」と暴力団側が音を上げるほどに逆風が吹き荒れている半面、いまだ彼らに対する世間の注目は途絶えていないようだ。
本稿では、1985~87年にかけて「戦争」とまで呼ばれるほどの大規模な抗争に発展した「山一抗争」や、これを機に制定された暴力団対策法(暴対法)、さらに暴排条例施行といった転換期に注目しながら、暴力団報道の推移について見ていこう。
北沢哲也氏が「噂の眞相」(噂の真相/04年休刊)85年5月号に寄せた記事によれば、暴力団という裏の存在が最初に報道に取り上げられたのは67年前後のこと。「アサヒ芸能」(徳間書店)がその嚆矢とされ、以降、飯干晃一氏の著書『山口組三代目』(角川文庫)によって暴力団に対する注目は急上昇。さらに、75年に起こった山口組と松田組の「大阪戦争」にて、暴力団抗争が大阪夕刊紙の第一面を飾るようになったが、「週刊ポスト」(小学館)、「週刊現代」(講談社)といったメジャー週刊誌では相変わらず暴力団は「タブー」という扱いだった。しかし、「山一抗争」は、そんなタブーを破って、各週刊誌が一斉に暴力団を取り上げるきっかけとなった。