――ビデオジャーナリストと社会学者が紡ぐ、ネットの新境地
危機的状況にある日本の水産資源問題を、築地市場はどのように変えていくことができるのだろうか?
[今月のゲスト]
生田與克[築地魚河岸マグロ仲卸「鈴与」三代目]
――昨今、世界的にマグロの漁獲量削減が議論されているが、水産資源大国といわれる日本でも、現在、漁獲量が危機的な状況に来ているという。その原因は乱獲にほかならないのだが、なぜ行政はこれに警鐘を鳴らさず、大手メディアもこのニュースを報じないのだろうか? 築地のマグロ仲卸三代目にご登場いただき、その問題点を議論したい。
神保 ゴールデンウィークの直前に、インド洋まぐろ類委員会(IOTC)の年次総会が韓国・釜山で開催され、急増するマグロの漁獲量の削減が議論されています。今、世界ではいろいろな種類の魚の資源量が危機的な状況に陥っていて、日本はその元凶とされているにもかかわらず、日本の国内ではこの問題への関心は必ずしも高くないようです。
今回は魚についていろいろ学びたいと考え、築地魚河岸マグロ仲卸「鈴与」三代目の生田與克さんにお越しいただきました。個人的なことですが、私は生田さんの『おいしい魚の目利きと食べ方』(PHP研究所)を読んで、魚のおろし方や魚料理を作る際の参考にさせていただいています。
生田 昔は街場の魚屋が話していたことなんですよ。「奥さん、今日はカツオが入ってるから持ってきなよ。皮目つけとくから、炙ってお酢かけてタタキにしな。ニンニクでもつけたら、今夜燃えちゃうよ!」なんて調子でやっていたんですから(笑)。
神保 とても実用的な本です。もうひとつ、今年に入ってから生田さんが出された本に、『あんなに大きかったホッケがなぜこんなに小さくなったのか』(KADOKAWA/角川学芸出版)があります。NHK『クローズアップ現代』でも東京海洋大学の勝川俊雄先生をゲストに、ホッケを入口にして魚の問題を取り上げていましたが、こちらも乱獲と資源量の問題を中心に書かれた本ですね。
生田 勝川先生の本にも詳しく書かれていますが、内容が難しい。学者ではないので無責任なところもありますが、みんながわかるようにと書いた本です。
宮台 私たちが小さい頃は、今より魚をよく食べました。仙台に住んでいたこともありますが、サンマとカレイが毎日のように食卓に上がっていました。外で友だちと遊んだ帰り道で、いつもどこからか魚を焼く匂いがしていたのを、よく覚えています。
生田 今はマンションなんかでは火が使えないところがありますからね。
神保 「鈴与」は生田さんのおじいさんが、築地市場が開場した時に始めたマグロ専門の仲卸で、今年で創立80年ということです。築地市場はいつ行っても雑然としていて、外部の人間にとってはどんな仕組みになっているかはなかなかわからないところがあります。
例えばマグロの場合、どのような過程を経て最終的に魚屋に並ぶことになるのでしょう?
生田 まずは漁船が獲ったマグロが、水揚げ地である清水や焼津などに来ます。今の流通の場合は、商社がそれを買い、築地の競り場の価格動向などを見ながら魚を出していく。それを受けて、荷受会社が競りをやります。
競り人は荷受会社の社員で、東京都の競り人試験に合格した人間です。その競りで魚を買うのが私たち仲卸業者。仲卸は買ったマグロを捌いて寿司屋やスーパーなどに出します。
神保 よく市場で、マグロを電気のこぎりで切っている風景を見ますが、あれは仲卸業者がやっているのですか?
生田 そうです。昔は柵(さく)にするまではやっていなかったのですが、今は本当に細かくなりました。
神保 お店の板前さんが、それをできなくなったからでしょうか?
生田 言っていいのかわかりませんが、板前がサボっているとも思います。昔は買ってきた魚を捌いてうまく保存して……ということを自分たちでやっていましたが、今はあまりやらなくなったのでしょう。
神保 よくマグロの競りの前に、買い付け人たちが、マグロの尾の肉の切り口をチェックしているシーンを見かけますが、あれは何をやっているのですか?
生田 脂や色味を見ているのですが、マグロ屋にとって最も大事なのは「身塩梅」です。水気のない、ネットリとした身がいい。寿司屋に行って「このマグロは身塩梅がいいねえ」なんて言えば、「お、お客さん知ってるねぇ!」となりますよ。