サイゾーpremium  > 特集  > 社会問題  > 写真を巡る【学問】の最前線

――写真系の専門学校のみならず、美大・芸大でも基本的には実技系の講義が多いが、それでも座学系の学問もないではない。そこで本稿では、実技系とは違う、「学問として」教えられている写真関連の学術体系のいくつかを紹介してみよう。

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芸術の“最高学府”たる東京藝術大学。前身は、1889(明治22)年に開校した東京美術学校。第2代校長は岡倉天心である。

 今でこそ、美大・芸大に写真学科、もしくは写真コースが存在することは当たり前になっているが、日本において「写真」をその学究対象とした学問分野の状況は最初から順風満帆というわけではなかった。日本を代表する芸術の最高学府たる東京藝術大学の前身である東京美術学校(1889年開校)は、1915年に日本初の写真専門の科である臨時写真科を設置するが1926年に廃止、その後1976年に美術学部附属写真センターが設置されるまで半世紀近くの空白期間がある。日本大学芸術学部と東京工芸大学の写真学科は比較的長い歴史があるという例外はあるものの、東京藝大の事例は「学問としての写真」の不安定な状況を象徴しているともいえる。

 とはいえ、1991年には「写真表現にかかわる制作・理論・歴史等の学問的研究を行い、写真文化の向上と普及に寄与すること」を目的として日本写真芸術学会が設立され、美学会、表象文化論学会、日本映像学会といった学術研究団体の全国大会でも必ずといっていいほど写真をテーマにしたプログラムが組まれるようになるなど、写真研究の環境は着実に整備されつつある。その一方で、写真学科の多くが美大・芸大に集中していることからもわかるように、そこで実際に教えられている実技科目も講義科目も、基本的には「芸術表現としての写真」という考え方がベースにある。例えば「写真史」や「写真表現論」といった講義科目では、歴史的に著名な写真家の表現を取り上げるような作家主義的な部分が根強い。それは、写真の専門学校の授業でも同様である。

 しかし、私たちが日常生活で写真と触れ合う機会は「芸術表現としての写真」以外にも無数に存在する。むしろ、それらの写真のほうが大多数を占めるに違いない。それは「撮る」だけでなく、「(アルバムに写真を)貼る」「(額縁に写真を入れて)飾る」「(プリクラを)交換する」「(アイドルの生写真を)蒐集する」「(SNSで写真を)共有する」「(写真と本人を)照合する」といったさまざまな行為として表れる。いわば「日常経験としての写真」である。そして、現在の写真研究はまさにこの分野、先述した従来の作家主義的な写真史の射程には入ってこなかったようなこの広大な未知の領域にこそ大きな関心を示し始めている。もちろん、従来の写真史の枠組みにおける優れた業績も数多くあるが、今回は筆者の独断と偏見により、未踏の地に足を踏み入れた探究者たちの「調査報告」を、大きく以下の4つに分けてお届けすることにしたい。

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