――数々の“スターカメラマン”を生んできた、木村伊兵衛賞、土門拳賞を頂点とする日本の写真賞。しかし、海外の写真賞は評価の高いキュレーターや評論家が選考するのに対して、日本ではあくまでも”偉くなったカメラマン”が選ぶ、という意味合いが強いという。日本の写真賞の問題点に迫る!
『木村伊兵衛のパリ ポケット版』(朝日新聞出版)
写真特集の巻頭企画ということで、写真を評価するシステム「写真賞」の実態を見ていこう。日本に存在する「写真賞」は大きく3つに分けることができる。まずは、自治体や新聞、雑誌などがアマチュア向けに行っている賞。いわゆる一般公募のオープンな写真賞だ。そして、広告写真など商業的な写真に与えられる賞。それら2つの写真賞が「1枚の写真に対する評価」で選出されるのに対して、「写真家」自身に与えられる賞がある。木村伊兵衛写真賞や土門拳賞など、シリーズ展示や写真集などの連作を対象としながら「写真家」に与えられる、この3つ目の賞。それらは写真関係者による推薦などノミネート形式で行われることが多く、前出の2者と違い、明確に「芸術として」写真を評価するための賞だ。本稿では、最も一般に知られており実際の影響力も大きいこのジャンルの写真賞の歴史と意義、そしてそれらが抱える問題点について、識者のコメントを交えながら考察していこう。
写真家に与えられる写真賞で最も有名かつ歴史が古いのは、「木村伊兵衛写真賞」である。去る3月、2014年度の受賞者として石川竜一、川島小鳥の両氏が選ばれたことがメディアで報じられた同賞。新人を対象とした賞であること、「アサヒカメラ」(朝日新聞出版)という雑誌発の賞であることなどから「写真界の芥川賞」とも呼ばれている。しかしこの木村賞が現在のような形になるまでには、いくつかの変遷があったようだ。写真評論家のタカザワケンジ氏は言う。
「1975年に始まったアマチュアの神様的な存在だった故・木村伊兵衛の名を冠することで、次代のスター写真家を見出すための賞でした。したがって、時代とともに”スター”の条件も変わってきます。当初は北井一夫(75年度、第1回)、藤原新也(77年度、第3回)など異色のドキュメンタリー写真家が選ばれていますが、その後はネイチャーの岩合光昭(79年度、第5回)や、現代美術の領域で活躍する宮本隆司(88年度、第14回)など意外とジャンルは幅広い。ただし、彼らになくてはならないのが時代性とスター性です」(タカザワ氏)