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町山智浩の「映画がわかる アメリカがわかる」 第88回

ヘロイン中毒者"贖罪"の旅と米国版お遍路

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『ワイルド』

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幼少時のDVにより、セックスとヘロインに溺れるシェリル・ストレイドは、心優しき夫と自身の歪んだ不貞行為に悩まされていた。やがて離婚した彼女は、これまでの人生を見直すため、1600kmの過酷なパシフィック・クレスト・トレイルに挑む。実話をもとにしたベストセラーをオスカー女優が製作&主演し映像化。

監督:ジャン=マルク・ヴァレ/主演:リース・ウィザースプーンほか/日本公開未定。


 パシフィック・クレスト・トレイルは、メキシコからカナダまで南北に連なるシエラ・ネヴァダ山脈の尾根を走る自然歩道。最高地点のフォレスター峠は標高4000メートルを超える。踏破に挑戦する人々は多いが、成功率は6割といわれる。1995年、27歳の女性シェリル・ストレイドは、たった1人で踏破に成功し、その手記『ワイルド』が、リース・ウィザースプーン製作・主演で映画化された。

 シェリルはアウトドアスポーツに興味はないし、キャンプの経験すらロクになかった。彼女が苛酷なトレイルに挑んだのは、ヘロイン中毒でセックス中毒だったからだ。シェリルは離婚したばかりだった。結婚している間、ウェイトレスとして働く彼女は行きずりの男たちに身を任せた。男の1人はジャンキーで、彼女にもヘロインを注射した。

 ジャンキーと共に行方不明になったシェリルを、夫は必死に探し出して、家に連れて帰った。その後、ジャンキーの子どもを妊娠していることに気付いたりもするのだが、どんなことがあっても夫は妻を責めず、いつでも優しく抱きしめた。彼の優しさがシェリルには苦痛だった。

 離婚した日、彼女は夫の名前のタトゥーを腕に彫った。籍を抜く時、彼女は名字をストレイドに改名した。「野良」とか「はぐれ」という意味だ。

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