――ジャーナリストらがその創業者や初期メンバーから深く取材をし批判も含めて綴った、テクノロジー企業の内実を描くノンフィクションには良書が多い。いま現在テック業界を牽引する企業の本来の姿が描かれたそうした書籍を一挙レビューすることで、業界の最前線を研究してみたい。
『マンガでわかる 1万円起業』(飛鳥新社)
20世紀末のドットコムバブル以降、スタートアップ(起業)という言葉を頻繁に耳にするようになった。なんとなく「起業したてのIT系ベンチャー」などとイメージする人が多いだろう。概ね正解だ。
だが、厳密に言えばスタートアップはIT分野でなくても構わないし、会社組織である必要もない。ここで扱うスタートアップとは、個人資本、もしくはベンチャー・キャピタルから出資を受け、これまでにない新しいビジネスモデルや潜在的市場を発見し、短期間のうちに急激に成長して、イグジット(バイアウトやIPO)を狙う人(ファウンダー)たちの集合のことだ。今をときめくグーグル、フェイスブック、ツイッターといった企業も、ほんの数年前まではスタートアップだったのだ。
ここでは、シリコンバレーのさまざまなスタートアップの実態を、書籍から読み解いていこう。
Yコンビネーター流スタートアップ育成
数年前からスタートアップ界隈では、まずはコストをかけずに商品やサービスのプロトタイプを作成し、運用しながら反応を見て改良していくという、「リーン(無駄のない)スタートアップ」というマネジメント手法が注目されている。
これについては、2011年にエリック・リースによって著され、日本でも12年に刊行された『リーン スタートアップ』【1】に詳しいが、シリコンバレーのスタートアップには、この手法を採用するところが多い。
シリコンバレー最強のスタートアップ養成スクールと呼ばれるYコンビネーター(以下、YC)に参加するスタートアップたちもそのひとつだ。
YCは、伝説のハッカーでありファウンダーのポール・グレアムが、05年に設立したインキュベーターファンドだ。クラウドストレージ大手の「ドロップボックス」や、空き部屋を旅人に提供するマッチングサービス「Airbnb」といったIT企業が、ここから巣立っている。