――近頃、「VICE」というロゴが付いた動画を見かけることが増えたという読者もいるだろう。イスラム国の内部に潜入したドキュメンタリーをはじめ、刺激的な内容につい目を奪われてしまうが、そんな動画を配信する「VICE」とは一体なんなのか? 収益モデルからメディアとしての功罪まで、徹底研究!
「VICE」日本版のウェブサイト。ここを訪れたことはないけど、YouTubeの動画は見たことがある、という読者もいるだろう。
YouTubeのトップ画面やSNSのタイムラインで、「VICE」というロゴを目にする機会が増えたのではないだろうか。それが付された動画や記事の配信元であるVICE MEDIAは現在、ニューヨーク・ブルックリンを本拠地としながら世界35カ国に支部を持ち、YouTube上のチャンネルや関連サイトなどの月間訪問数は合計で1億8100万人以上。若い世代を中心に支持され、2016年には売上高10億ドルを超えるともいわれる。
そもそも「VICE」とは、VICE MEDIAの現CEOでジャーナリストのシェイン・スミス、現ジャーナリストのスルーシュ・アルヴィ、また現在はVICEを離れて作家兼俳優として活躍するギャビン・マッキネスの3人によって、カナダ・モントリオールで1994年に創刊されたフリー・マガジン。”VICE(悪徳)”という言葉を冠したそのカルチャー誌は、テリー・リチャードソンをはじめとするクセの強い写真家を起用し、セックス、ドラッグ、バイオレンスな記事を中心に人気を博した。世界25カ国で約110万部も配布されていた時期もあったが、雑誌の広告収入だけでは立ち行かなくなり、07年よりウェブ展開のほうに注力。「VICE」誌日本版(07~10年)の元編集者で、12年のVICE MEDIA日本支部の再創立から14年6月まで日本版のウェブにかかわったトモ・コスガ氏は、こう語る。
「07年、アメリカでVICEが始めたブロードバンド番組『VBS.tv』が、どこよりも早くブロードバンド映像を無料で提供し始めたんです。その中で北朝鮮潜入ルポなど世界の禁断の地めぐりをした映像が人気コンテンツになったことで、VICE MEDIAはウェブでの映像展開に重きを置くようになりました」
だが、オリジナルの映像をつくるには、制作費がなければ始まらない。そこでVICEが取ったのは、次のような方法だ。
「当時、YouTubeだけで見られるプレミアム動画は少なく、親会社のグーグルはオリジナル・コンテンツを強化したいと考えていました。そんなYouTubeのために、VICEは動画コンテンツ制作を名乗り出ました」(コスガ氏)