――連続女性暴行事件を描いた映画『ら』は、想像力を超えたリアリティが感じられる快作だ。それもそのはず、監督は、自らがその被害に遭ったことがあり、実体験を元にして、製作されたのだから……。
(写真/若原瑞昌(D-CORD))
監督自らが被害者となった連続女性暴行事件を描いた異色の映画『ら』が、この3月から公開される。見知らぬ男にある日突然、車に押し込められて拉致される──。そんな尋常ならざる暗い過去と、真正面から向き合ってみせた監督の想いは果たしてどこにあったのか。これが監督デビュー作でもある新鋭・水井真希に、その真意を訊いた。
「映像化することで過去に折り合いをつけたかったとか、きっとそういう答えを期待していると思うんですけど、作品にしたことで気持ちに何か劇的な変化があったかというと、特にない。拉致を題材にしたのも、5カ月後の映画祭に間に合わせるためには、そのほうが何かと都合がいいっていう現実的な判断が先にあったから」
言葉を選びながらも、当事者らしからぬ意外な返答を飄々としてくる、「マイペース」な話しぶり。ややもすればエキセントリックなその言動に、少し面食らっている我々に、彼女は淡々と続けた。
「私は普段からこんな感じなので、この作品を撮るまでは事件のことを話しても、かなりの確率で信じてもらえなかったんです。被害者の中で比較的無事に解放されたのも、犯人のほうが私を扱いづらいと思ったんじゃないかな」