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町田 康の「続・関東戎夷焼煮袋」第24回

【イカ焼】――冷凍イカ焼のコレジャナイ感……ついに味の再現に立ち上がる時

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――上京して数十年、すっかり大坂人としての魂から乖離してしまった町田康が、大坂のソウルフードと向き合い、魂の回復を図る!

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photo Machida Ko

 食うつもりで食われているつもりで食う。そんなことを思いながら私は三種のイカ焼を次々と食べた。いか焼、デラバン、和デラ、である。いずれも、曰く言いがたいモチモチ感とコーティングされた感じ、そして独特のソースの味に彩られた屹立する、他の何者でもない、イカ焼の味であった。

 けれども。なにかそぐわない感じ、どこか違う感じ、があって、それはいか焼→デラバン→和デラという順番で増大し、和デラを食べ終わった時点で、これは根本においては同じものだが、本来のイカ焼とはやや違った食べものではないか、とさえ、思うようになっていた。

 というのは、冷凍だから、とか、やはり本場大坂の町の匂いや空気感を感じつつ食べて初めてイカ焼なのだ、といったような、腐った市民メルヘンではなく、もっと根源的なことで、それは、私の記憶の中のイカ焼はもっとモチモチしていたし、もっとコーティング感があったし、もっと頭を殴り回されるようなヘヴイなソースであったような気がしてならぬのだ。

 というと単に記憶を美化、理想化しているだけのように聞こえるがそうではなく、私はその原因、すなわち、いか焼、デラバン、和デラ、がその境地に至らぬ原因を具体的に指摘することができる、それは。

 具が多すぎるのではないか、ということで、イカ焼の本然とは、右にも申したとおり、粉のモチモチ感とコーティング感とソースの独自性にある。もちろん、そこにイカの香りが混入されていなければ、それはイカ焼ではなく、そこに豚といったケダモノの類が入っていたり、シナモンが振りかけてあるなどということはけっしてあってはならない。

 しかし、である。私は味と香りは別のものである、と思う。つまり、イカ焼というものは、イカ、という名前は付いているが、味としては、特殊な製法で焼かれたる、いやさ、焼き固められたる粉の味であり、これまた、特殊な製法で拵えられたるソースの味であるべきであって、けっしてイカの味であってはならないと思うのである。

 しかるに、このイカ焼はイカの味が強く、肝要部分・枢要部分の粉の味を圧殺しているように私には思えてならぬのである。

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