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哲学者・萱野稔人の"超"哲学入門 第9回

ユダヤ人政治哲学者が見たナチス・ドイツの巨悪の正体

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(写真/永峰拓也)

『イェルサレムのアイヒマン――悪の陳腐さについての報告』

ハンナ・アーレント(大久保和郎訳)/みすず書房/3800円+税
1963年に米雑誌『ザ・ニューヨーカー』に連載されたアドルフ・アイヒマンの裁判記録。数百万人のユダヤ人を強制収容所送りにしたアイヒマンを凡庸で小心者な役人として描き、大きな論争を巻き起こした。

 ハンナ・アーレントはドイツで生まれたユダヤ人の政治哲学者です。はじめハイデッガーのもとで哲学を学び、その後、ナチスの迫害から逃れてアメリカに亡命しました。昨年、彼女を題材にした映画が日本でも公開されて話題になり、その著書『イェルサレムのアイヒマン』における"陳腐な悪"という分析が注目を集めました。

 アイヒマンとは、ナチス・ドイツの親衛隊員で、役人として何百万人ものユダヤ人をアウシュヴィッツなどの強制収容所に移送する現場の責任者だった男です。戦後、アイヒマンは戦争犯罪で追及されることを恐れてアルゼンチンに亡命します。しかしイスラエルの諜報機関であるモサドの工作員に誘拐されて、イスラエルに強制連行されました。そしてそこで裁判にかけられて、有罪となり、処刑されました。

 同書はこの裁判の経過を報告しながら、独自の分析を加えたものです。

 裁判で明らかになったのは、実際のアイヒマンが決して凄まじい反ユダヤ思想をもった極悪人ではなかったということでした。裁判でアイヒマンは、役人として私は命令に従ったまでだ、ということを何度も繰り返しました。要するにアイヒマンは、どこにでもいる凡庸な公務員にすぎなかったんですね。もちろんアイヒマンは自分が職務を遂行することによって、ユダヤ人たちがどんな運命になるのかを知らなかったわけではありません。でも、それが官吏である自分に与えられた職務であり、自分はその職務に忠実であろうとしただけだと、裁判で答えたのです。

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