――アニメファンが、作品を観る際にチェックするのが、「これはどこのアニメ制作会社が作っているか?」という情報だ。熱心なファンでなければあまり知られていない”制作会社”という存在だが、決して金回りがいいとはいえないアニメ制作事情において、彼らはどうやって生き残りを図っているのだろうか?
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すべては東映動画&虫プロから始まった!制作会社の変遷から見る日本のアニメ史
――事ここに至るまでには日本のアニメ業界の歴史が存在している。スタジオの派生と、業界構造の変化を重ねあわせながら、その歩みをざっくり見てみよう。
■50's
東映が始めた黎明期
戦前よりアニメーション制作を行うプロダクションは存在していたが、現在までに至るアニメスタジオの始祖は、52年設立の東映動画と言える。58年に、日本初の長編カラーアニメ映画『白蛇伝』を公開し、後進に多大な影響を与える。
■60's
テレビアニメ誕生とブーム
63年に日本初の連続テレビアニメ番組『鉄腕アトム』を制作、この成功を機にテレビアニメブームが到来。この頃生まれた竜の子プロ、東京ムービー、TCJ、ピー・プロダクションが、現在のアニメ業界の基礎を築く。当時のスタジオは基本的にテレビ局と系列化されていた。
■70's
作品数増加で競争激化
制作本数が増加し、スタジオの数も急増。アニメーターの人材不足が表面化し、優秀なスタッフの引き抜きが恒常化。人件費も高騰する。70年代初頭に東映動画ではリストラが行われ、虫プロは労働争議の結果、倒産。その後、同スタジオのスタッフがサンライズなどを起ち上げる。
■80's
OVAでマニアの時代到来
家庭用ビデオデッキの普及により、オリジナルビデオアニメーション(OVA)が誕生。よりマニアックな作品を求めるアニメファンに向けた、ハイクオリティな作品が求められるようになる。それに伴い、OVA制作を主軸に据えるスタジオも誕生する。
■90's
『エヴァ』大ヒットが生んだ功罪
深夜アニメの増加、『新世紀エヴァンゲリオン』ヒットによるアニメブーム再来などによりテレビアニメの年間制作本数は右肩上がり。しかし、旧態依然とした動画を手描きするという制作体制は変わらず、徐々にクオリティに破たんをきたすアニメが増加。俗にいう作画崩壊が頻発するようになる。また90年代半ばより、GONZOのようにデジタルアニメ制作で名を上げるスタジオが出現。
■00's
デジタル主流化と新元請けの台頭
02年から03年にかけて、デジタル制作アニメが急増。04年頃には、テレビ放映されるアニメの大半はデジタル制作となる。この時期、それまでグロス請(1話まるごと制作を引き受けること)をメインに行っていたスタジオが元請けを開始、頭角を現す。中でも長年培われた制作能力をバックボーンに、ハイクオリティな作品を立て続けに発表した京都アニメーション、シャフトなどに注目が集まる。
■10's
疲弊しながら拡散する業界
オタクカルチャーが世界的に注目を集めるようになり、アニメの制作本数はさらに増加。安定した資金調達の必要性などから、経営方針の多様化が進む。また、培ってきたCGアニメーション制作技術を生かして、初のテレビシリーズ『シドニアの騎士』を制作したCGアニメプロダクション・ポリゴンピクチュアズなど、新たにテレビアニメ制作に参入する例も出てきた。
空前のアニメブームが世を席巻する一方、相変わらず制作現場の薄給ぶりがしばしば問題となるアニメ業界だけあって、制作会社は常に安定した資金繰りに頭を悩ませている。その一方で、さまざまな他業界がアニメファンの強力な購買力に目をつけ、いかにコンスタントにコンテンツを供給できるか、目を光らせている。そんな両者の思惑が合致した結果、近年、上記のようにさまざまなスタイルのアニメ制作スタジオが生まれつつある。
まず最も手堅く、かつ今後主流になるであろうパターンが「テレビ局の子会社化」。スタジオは安定した資本を求めている。対するテレビ局は、各スタジオが持つ人気作品を自社で自由に使えるようになれば、自局のコンテンツ力を強化することにつながるというわけだ。中でも日本テレビは、長年のジブリとの付き合いからアニメの持つコンテンツ力を思い知っているのか、『サマーウォーズ』など細田守作品を手がけるマッドハウス、『ヤッターマン』などのタツノコプロほか、複数スタジオを子会社化している。一方、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』など、ヒット作を多数生み出した「ノイタミナ」枠を持つフジテレビも、アニメ開発部を設置した上で、『ジョジョの奇妙な冒険』を制作したデイヴィッドプロダクションを子会社化。今後はテレビ局主導でオリジナル作品を制作していくことになるだろう。
もうひとつ、強力なコンテンツを求めている業界がパチンコ業界だ。人気アニメを題材にした遊技機を導入することで、パチンコに興味のなかったアニメファンがホールにやってくる事態は珍しくなくなり、近年は最初からパチンコ化を前提とした企画も少なくはない。新たなネタを求めるパチンコメーカーと、遊技機がヒットしさえすればある程度自由に制作ができる環境を維持できる、というスタジオ側の思惑が一致した結果だといえる。