『妖怪ウォッチ』がブーム真っ盛りだ。子ども向けと侮るなかれ、同作は商売と完成度を両立させた、実によくできた作品なのだ。そのほかにも、キッズアニメは毎年コンスタントにヒット作を生み出している。一般にあまり触れられることはないが、重要なポジションを占めるこのジャンルに、ビジネスと作品性の両面から迫る。
『妖怪ウォッチ ようかい だいずかん: ともだち だいしゅうごう!』 (小学館)
ゲーム、アニメ、コミックス、玩具といった全方位型のクロスメディア展開を成功させ、今や社会現象ともいえるブームになっている『妖怪ウォッチ』。今年7月に発売されたゲームの第2弾『妖怪ウォッチ2 元祖/本家』(ニンテンドー3DS専用)パッケージ版の累計販売本数は210万本以上のメガヒットを記録し、玩具・グッズを販売するバンダイナムコホールディングスによれば、関連商品の売上高は、今年9月中間期までに1000億円を突破するという。そんな、今や日本中の子どもたちを虜にしているといっても過言ではない『妖怪ウォッチ』。だが、いったいどんなものなのかイマイチ理解できていないという読者も少なくないだろう。
そうした方々のために前ページでは解説マンガを描き下ろしているが、さらに詳しくいうと、本作のクロスメディアプロジェクトの始まりは、ゲーム第1弾の発売に先駆けて12年12月に少年誌「コロコロコミック」(小学館)で連載がスタートしたマンガ版だ。平凡な小学5年生・天野ケータが夏休みのある日、執事妖怪のウィスパー(おばけ型)と出会い、妖怪を見ることができる不思議なアイテム「妖怪ウォッチ」を手に入れ、日常に潜むさまざまな妖怪たちと友だちになってクラスメイトや周りの人々の悩みを解決する……という物語である。ゲーム版もアニメ版も基本的なストーリーは同じ。ゲームは『ポケットモンスター』同様、街中を探索しながらキャラクター(『妖怪ウォッチ』の場合は妖怪、『ポケットモンスター』の場合はモンスター)を収集していくRPGゲーム。アニメ(今年1月〜)はさらに個々の妖怪のパーソナルな部分に踏み込んだストーリーになっているだけでなく、親世代も……というより親の世代しか楽しめないようなパロディ要素がふんだんに盛り込まれているのが特徴である。
このアニメ版をきっかけに『妖怪ウォッチ』の知名度がグンと上がったわけだが、この作品の制作手法について、アニメ評論家の氷川竜介氏は「典型的な足し算企画」だと語る。
「『妖怪ウォッチ』は仕掛けやキャラクター配置などの構成パーツには、特に目新しいものがあるわけではありません。それがこの作品の一番すごいところ。ウィスパーもジバニャンもケータの家に居候していますが、”特別な者がやってきて住み着き、自分の生活を変えてくれる”というのは子ども向け作品の定番なんですよね。その代表格が藤子・F・不二雄先生の作品で、60年代の『オバケのQ太郎』、70年代から現代にかけての『ドラえもん』。『妖怪ウォッチ』にはその両方の要素が入っていて、おばけ(ウィスパー)と大きな猫(ジバニャン)の両方が居候的にやってくるという、両手に花状態ですよ。普通ならあまりにも設定がベタすぎて『これはないだろう』と制作側がブレーキを踏んでしまうところですが、逆にアクセルを踏んでいるところが素晴らしい。
もうひとつ、”妖怪メダルを集める”というのも、子どもの欲求を非常に理解しています。ビックリマンシールしかり、子どもは何かをコレクションするのが好き。”妖怪と友だちになってメダルを集めていく”というのは『ポケットモンスター』にもあるヒット要素。『妖怪ウォッチ』は構成要素としては、完全な積み上げ算です。にもかかわらず、現代の子どもたちが直面している世の中の諸問題や、友だちとのコミュニケーションに関する悩みなどを、”妖怪”という仮想のものの仕業によることとして解決していく構造には、しっかり”今”の要素が盛り込まれている。実際、制作側は小学生に念入りなリサーチをしているようですし、最新の感性と問題意識を子どもたちに向かって発信しているところが受けているのだと思います。子どもは、前の世代に流行ったものや懐かしがられているような作品よりも、自分たちのために作られた新しいコンテンツを提示されると喜ぶものなんです」
さらに、作品の中身のみならず、この爆発的ヒットを可能にしたビジネスの仕組みにもまた、現代らしさがあるという。
「今までは、原作=一次創作があり、その二次創作で儲けていくというマルチメディア展開が多かった。例えば『ポケットモンスター』だと一次創作(原作)はゲームで、最終的にゲームが最大利益になるように、二次創作のアニメやマンガがある。一方クロスメディアは、最初からウィンウィンになるように他社を巻き込んで、トータルで全体の売り上げを伸ばしていこうという発想で、最近はこちらのやり方のほうが注目されています。プロジェクトの本格始動前から異業種の企業を巻き込み、それぞれの得意分野の人が出してきたアイデアを取り入れていきながら、全体として巨大原作になっていくわけです。『妖怪ウォッチ』はまさにそうで、おそらく主軸はゲームと玩具だと思いますが、今やどのメディアが一次創作なのかわからない状態ですよね」(氷川氏)