――ビジネスとして新機軸を打ち出した映画『STAND BY MEドラえもん』だが、藤子・F・不二雄の世界観を無視し、泣ける話をつなぎ合わせただけという批判の声も多い。このまま情感を刺激するだけの作品が量産されていくのを、黙って見ているわけにはいかない!ドラ通識者に、真のFイズムを聞いた。
(絵/沖真秀)
8月8日に公開されたフルCG映画『STAND BY ME ドラえもん』の興行収入が77億円を超える(10月6日現在)大ヒットを記録している。毎年恒例、春のドラえもん映画の興収平均が30億円台後半なので、実に約2倍。「CGでドラえもん」という新鮮味に加えて、大人向けに「泣ける」ことを打ち出した宣伝戦略が功を奏した形だ。
しかし、『ドラえもん』を愛するからこそ、あえて言いたい。『STAND BY ME ドラえもん』は、「ヌキどころ」をつなげたオムニバスAVのごとく、原作屈指の感動短編を乱暴に並べただけの代物である。
その一例を挙げよう。のび太が「僕のお嫁さんになれば、しずちゃんは一生不幸になる」と思い込み、嫌われる薬「ムシスカン」を過剰摂取するというくだりだ。これは「しずちゃんさようなら」という原作が下敷きになっているが、のび太が「自分の未来の結婚相手がしずかちゃんであることを知っている」からこそ成立する話だ。
しかし、フルCG版でこのエピソードが登場する時点では、のび太の結婚相手はジャイ子で、のび太もそれを知っている。これでは、のび太がしずかちゃんに嫌われようとする動機がない。
エピソードの配置順、もしくは脚本の構成がおかしいのだ。にもかかわらず多くの観客が反射的に泣いてしまうのは、『ドラえもん』が国民的作品であるがゆえに、「のび太の結婚相手は最終的にしずかちゃんである」ことを、作品外情報としてすでに知っているからだ。1本の映画としての説明不足やつじつまの合わなさは、観客の脳内補完によって帳消しにされてしまう。そして、「しずかがのび太を救う」という記号的な泣きどころで、パブロフの犬的に観客の涙腺を緩ませ、暴力的に〝涙をカツアゲ〟しているのだ。
フルCG版の大成功によって、CGドラの続編が制作される可能性は高い。事実、ある製作関係者の口からはこんな話も出た。
「アニメ版『ドラえもん』の制作会社で著作権も共同所有しているシンエイ動画ではここ数年、芳しくない劇場版の評判を受けて苦しい状況になっていた。そんななか製作委員会としても名を連ねているフルCG版が当たったので、過去の長編(映画)をフルCGでリメイクすることは間違いない」
ちなみに、05年の声優交代後に作られた『ドラえもん』映画9本のうち、5本が過去劇場版のリメイクだ。原作の藤子・F・不二雄氏が96年に逝去後、04年までの映画版は原作なしのオリジナルで制作されたが、どれも評価は芳しくなかった。ゆえにリメイクという安パイに走るのは理解できる。
ただ、感動系短編の原作ストックもいつかは枯渇するし、リメイクはネタ不足を背景とした「焼き直し」だ。藤子F氏晩年の中編『未来の想い出』では、作者自身を模した主人公に、編集者がこんなことを言っている。
「コツでかくってことはパターン化するってことですよ。いつまでもなやみながらかいてほしかったな」(原文ママ)
安易な既存メソッドの踏襲を、F氏は良しとするだろうか?