――数々の芸能スクープをモノにしてきた芸能評論家・二田一比古が、芸能ゴシップの"今昔物語"を語り尽くす!
『松本人志 仕事の流儀』(ヨシモトブックス)
日曜朝の情報番組『ワイドナショー』(フジテレビ)でコメンテーターを務めるダウンタウンの松本人志。この番組で、週刊誌の取材方法に対して、「ゲスのゲス」と痛烈批判をした。
きっかけは松本が番組内で「オヤジが死んだんだ」と発言したことからだった。彼の父親と松本自身の間には以前から確執があったことも付け加えていた。
松本の発言を受け、ある女性誌は尼崎にある松本の実家を訪ね、母親を直撃したという。松本はその行為を「ゲス」とまで言い放った。
「松本は母親や兄もよくネタにしていた。それが実家への取材はNGでは、彼にとって都合のいい話は取材していいけど、都合の悪いものはダメと言っているようなもの。だいたい父親が亡くなった話も松本がテレビで話さなければ、週刊誌のネタにはならなかった。それを自らテレビで話しておきながら、家に行ったら"ゲス"では松本の人間としての器量が問われる。今後、この手の取材を拒否するなら、私生活の話はいっさいしないことです。私生活をネタにする以上、私生活も取材対象になることを自覚するべきです」とある週刊誌記者はいう。
芸能人の冠婚葬祭をめぐって週刊誌が実家に取材に行くことは常套手段であり基本である。
新聞やテレビは芸能ニュースの第一報を伝えるが、週刊誌は二次、三次報道であり、新聞やテレビと同じような報道では意味がない。さらに突っ込んだ内容が必要になる。その一環として家族への取材は今に始まったことではない。昔から脈々と続いている。最近だけでも主だった芸能人の身内の取材を思い出せばわかる。犯罪事件とはいえ、ASKAの事件でも目黒の自宅だけでなく、福岡の実家にも多くのマスコミが押し掛けた。
中島知子の件も然り。京都の実家にまで取材は及んだ。結婚や離婚話も然り。プライベートなことはプライベートを知る人物を取材する。その代表たる人が家族だろう。
松本は「素人のおばあちゃんを相手に取材にいくこと自体が信じられない」とまで言った。この発言はよくわからない。取材する側はプロでも、私生活に関する取材対象者はプロも素人もない。経済など難しい話を聞くわけではない。子どものプライベートな話を喋らせることができるかできないか、答えるか答えないか。それだけのこと。
私生活は台本のないドラマ。週刊誌の狙いはそこにある。例えばニューミュージックがもてはやされた時代。人気ミュージシャンのNと元タレントの妻との間に不仲説が流れていた。
別居しているわけでもなければ浮気の根拠もなく、マスコミも歯がゆい思いをしていた。そこで「夫婦問題なら親がなんらかの話を聞いているのでは」ということになり、著者は九州にあったNの実家に飛んだ。どんな相手であろうと、アポなしの直撃はいつも緊張する。
住宅街の一角にある一軒家。
最初は「別にお話しすることはありません」と断られたが、「また来ます」と言って翌日訪ねると対応に変化があった。家に上げてくれたのだ。
「息子夫婦はどうなの」と逆に取材される。夫婦の不穏な空気を母親も察していたからこそ、マスコミの動きが気になるのだ。場所を改め夜、飲みに出かけた。途端に饒舌になり、息子の嫁との確執を語り始めた。母親は、息子から嫁の不満を聞いていたのだ。ならば、子どもを作る前に離婚したほうが、お互いの将来のためにもいい。
母親の話を元に「離婚記事」を書き、その後二人は離婚した。
他にも似たようなケースがある。今やトップ俳優としてテレビドラマに欠かせない存在にまでなった俳優のMの最初の離婚もそうだった。Mの母親と嫁の折り合いが悪かった。それを筆者は母親から直接聞いた。そのきっかけは実家に何度となく行った取材で、そのうちに、筆者に相談するという形で口を開いてくれたのだった。
芸能界に子どもを出した親は、子どもがどんな風に芸能界でやっているのか、その詳細を第三者から聞きたいのだろうと思う。その点マスコミはそのあたりを客観的に見ることができる機関との見方をされているのかもしれない。
こちらもおべっかを使うことなく、正直に答える。「今のままじゃ、人気も落ちますよ」とかはっきり言ってやる。そこから信頼関係が生まれ、親も腹を割って話をしてくれる。しかしもちろん、すべてが同じようにうまくいくわけではない。
「帰れ!!」と怒鳴られることもあれば、居留守を使われることもある。なかには「事務所を通してくれ」とマニュアルでもあるような答えもある。子どもは芸能人でも親は芸能人ではないはずなのに。当たってみないとわからないから取材は面白い。
芸能ニュースにおいて実家はネタの宝庫かもしれない。
ふただ・かずひこ
芸能ジャーナリスト。テレビなどでコメンテーターとして活躍するかたわら、安室奈美恵の母顔が娘・奈美恵の生い立ちを綴った「約束」(扶桑社刊)、赤塚不二夫氏の単行本の出版プロデュースなども手がける。青山学院大学法学部卒業後、男性週刊誌を経て、女性誌「微笑」(祥伝社/廃刊)、写真誌「Emma」(文藝春秋/廃刊)の専属スタッフを経て、フリーとして独立。週刊誌やスポーツ新聞などで幅広く活躍する。現在は『おはようコールABC』(朝日放送)、『今日感テレビ』(RKB毎日放送)などにコメンテーターとして出演。