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【premium限定連載】出版界 ホンネとウソとウラ話 第10裏話

やりたい放題アマゾンの恐怖営業が始まった! “格付け”や“報奨制度”で出版社を恐喝!?

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アマゾンの出版格付け問題記事はコチラ

 アマゾンがついに日本の出版社に牙を剥き始めた。欧米ではすでに、アマゾンの売り上げシェアの高まりに乗じて、高圧的な仕入れ交渉を出版社に迫り、出版社のマージンが引き下げられているのはよく知られている。最近では電子出版において、アシェットグループと火花を散らしているが、日本でもそうした事態に陥る可能性が出てきた。

 8月28日付で朝日新聞や産経新聞が、アマゾンの「優遇マーケティングプログラム」について報じ、物議を醸している。アマゾンは今年に入って、これまで指標の1つだった「電子書籍」を、紙の書籍と同様に電子書籍にも上記のプログラムを適用すると言いだした。これに対し、文藝出版社らが反発し始めたのだ。しかし筆者からすれば、何を今さらという感が拭えない。すでに紙の書籍では優遇マーケティングは数年前から始まっているうえに、「“販売報奨”を上げないと在庫を少なくする」とまで言い始めているのだ。現状では、出版社の売り上げを支えているのは、間違いなく紙の書籍である。この本丸が切り崩され始めているのだ。

 まず、件の“格付け制度”は一体どんなものなのか?

 アマゾンは、「優遇マーケティングプログラム」と称して、年間契約を結ぶ出版社を、アマゾンへの貢献度合いに応じて「プラチナ」「ゴールド」「シルバー」「ベーシック」と格付けしてきた。2014年5月段階では、「マージン」「オペレーション」「顧客満足度」において13の指標に基づき、契約出版社をランク分けしている。シルバーよりもゴールド、ゴールドよりもプラチナの出版社の方が、アマゾンが提供する数々のサービスの恩恵を受けられるというものだ。

 例えば、最高ランクの出版社が受けられるサービスの中に「スーパーパーソナライゼーションバナー」というものがある。アマゾンサイトは各個人の検索や購入履歴等によって、ユーザーの趣味嗜好に合わせた関連書籍をピンポイントで紹介するというサービスがそれだ。その時の「プラチナ」の出版社の関連書籍の露出率は、100%と嗜好が合致したすべての人のページに表示されるのだが、「ゴールド」は60%、「シルバー」は40%とその表示に差を設けているのだ。こうしたサービスが10項目もあるうえ、仕入れなどの面においても様々なレベル別のサービスを設定している。

 その中でアマゾンが重要視している指標が、(1)e託販売サービスの導入、 (2)売上金額に対する販売報奨割合、(3)POD(プリント・オン・デマンド)商品の拡大――の3点。さらに、中期計画では「仕入れ条件」「販売報奨割合」「物流指標」に応じて発注量・在庫高の適正化を行なうとも表明していた。

 日本の出版流通には、取次という防壁が存在している。出版社側がアマゾンと、e託販売サービスなどで直取引をしない限り、取次を通じて商品を供給するため、出版社の卸値は取次によって守られている。だが、アマゾンはその強大な販売力を誇示し、“販売報奨”という手口を使って、別ルートから実質的な仕入れ値の引き下げに着手し始めたのだ。ちなみに、当該出版社は現在もアマゾンと交渉中で、決着はついていないという。

 その圧倒的な販売力で、出版界に対する権力を増大させてきたアマゾン。その手が緩むことはない。前述のとおり“販売報奨”を使って、さらに覇権を拡大をさせようとしているのだ。ある出版社の営業担当者は言う。

「アマゾンジャパン(アマゾンの日本法人)と出版社はここ数年の間に、“年間契約”というものを結んできた。これは、書籍の販売目標を設定し、その達成度合いに応じて、出版社がアマゾンに販売報奨金を支払う取り組みのこと。例えば、それを達成すれば、その売り上げの3%をアマゾンに支払うというのがオーソドックスなやり方と聞く。出版社は、もう上がる見込みのない書店経由の売り上げを補てんするためや、著作者から『アマゾンで品切れしている』とのクレームに迅速に対応するために、こうした年間契約をアマゾンと結んできた」

 アマゾンは、そうした契約を結んでいる出版社とそうでない社との対応に、雲泥の差をつけている。

 例えば、年間契約を結ぶと担当者が付き、「カート落ち」による補充などの対応が素早くなるうえ、売り上げアップの施策にも取り組んでもらえるからだ。だが、ここにきて、年間契約に基づく販売報奨金をめぐり、アマゾンは一部の中小出版社に対して強圧的に条件改訂を迫ってきたようだ。当該出版社の営業担当者は憤る。

「販売報奨金を上げないと、アマゾンが保管している当社の出版物の在庫(アマゾン市川FCなどアマゾンが抱える倉庫に保管してある在庫)を減らすと一方的に迫ってきた。もちろんこちらが、前年よりも率を下げたいと提案したわけでもない。アマゾンの在庫引当率を上げるために契約を結んで在庫ステータスを管理してきたはずなのに、これでは契約そのものが本末転倒じゃないか」

 恐るべきアマゾンの恐怖営業。だが実は、日本の出版社がアマゾンと年間契約を結び始めていた頃、欧米ではこうした事態は当たり前、いやそれ以上に苛烈な状況だった。ブラッド・ストーン著『ジェフ・ベゾス 果てなき野望』(日経BP社)に、その詳細が綴られている。その一部を引用する。

「アマゾンは大手出版社を果敢に攻めた。大量仕入れに対する割り引きや支払い延長を求める(中略)同意してくれない出版社に対しては、その出版社の本をパーソナライゼーションシステムと推奨システムの対象から外すと脅した。(中略)推奨アルゴリズムから外した出版社は、売上が40%も落ちるのが普通だった。だいたい30日もすると出版社は音を上げた」

「ベゾスはさらに多くを求めた。一定数の既刊本がアマゾンで売れてくれなければ倒産しそうな弱小出版社からも好条件を引き出せというのだ。チーターが弱ったガゼルに近づくようにアマゾンは小さな出版社にアプローチしなければならないというベゾスの言葉から、これはガゼルプロジェクトと呼ばれるようになる」

「売上高とアマゾンの利益率で欧州の出版社に序列をつけ、下位の出版社に契約条件の変更を迫った。もちろん、アマゾンに有利な改訂に同意しなければ、アマゾンサイトにおけるプロモーションのレベルを引き下げると脅して。(中略)1年間、ランダムハウス、アシェット、ブルームズベリーの欧州部門と激しくやりあった」

「すべては読者のために」。アマゾンは美辞麗句を並べたて、出版社らメーカーの仕切り値を下げてきたのだ。それによって、標榜する「エブリデーロープライス」、「顧客第一主義」を実現してきたかのようにみえる。

 しかし、この言葉はまやかしであった。ある日本の出版社は言う。

「年間契約を結ぶ際に言っていたアマゾン担当者のニュアンスだと、『自分たちが構築したネット販売システムに対してお金を支払え』というスタンスだったと記憶している。書店店頭が40%など多くの返品を出しているが、アマゾンは返品が少ない。しかも、予約販売においてはどの書店よりも事前に注文を集めてくる。こうしたネット書店という仕組みに価値があり、そこに対価を支払えという考えが透けて見えた」

 別の証言もある。在庫削減を突き付けられた当該出版社はアマゾン担当者に「在庫を減らすと言うけど、その商品を求める読者にとって不利益になるのでは?」と尋ねた。すると、「その読者には他の売れ筋の商品を推薦します」と不遜にも言いきったという。多くの出版物は“代替がきかない”という商品特性があるのにも関わらず、である。もちろん、その営業担当者が激怒したことは言うまでもない。早い話が、「すべては読者のため」ではなく、「すべてはアマゾンのため」なのである。同社は、メーカーを、販売力を背景に締め上げ、仕入値を引き下げて最安値で利用者に提供すれば、競合他社は太刀打ちできないという、商売の原則を非情なまでに貫いているのである。

 各出版社のアマゾンのシェアは年々高まりを見せている。数年前までは10%前後だったが、いまや10%を超えている社も多い。さらに、年間契約やe託販売サービスでアマゾンと直取引する出版社も増えてきた(現在、大手版元はこうした契約を結んでいないと言われている)。結果として、アマゾンの成長を中小出版社も手助けしてしまった。リアルでもネットでも断トツの販売力を誇示する巨人・アマゾンに対して出版社は今後どの道を選択するのか。アマゾンの言いなりになるのか、それともアマゾンの売り上げをあてにしない経営を目指すのか、はたまたアマゾンと肩を並べる小売を育てるのか。おそらく共存共栄できる相手でないのは確かだろう。

(文/佐伯雄大)


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