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町田 康の「続・関東戎夷焼煮袋」第22回

【イカ焼】――冷凍イカ焼が届く。いよいよ実食のとき……

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――上京して数十年、すっかり大坂人としての魂から乖離してしまった町田康が、大坂のソウルフードと向き合い、魂の回復を図る!

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photo Machida Ko

 子供の頃はピンポンダッシュということをよくやった。見知らぬ他家の呼び鈴を押し、その家の人が出てくる前に脱兎のごとく駆け出して門前から逃走するのである。

 いったいなんのためにそんなことをしたのかというと、それは純粋に愉快だったからで、他意はまったくなかった。当時の元服前の子供はみんなやっていたのではないだろうか。やっていなかったのは、相当に高位な、まるで皇族のような階層の生まれの、育ちの良い子供か覇気のない子供くらいのものだろう。

 しかし、精神的な元服制度もなくなり、いいおっさんが子供向けのアニメや玩具に現を抜かすようになり、また、玄関モニターホンというものが普及して貧民の家にも装備されているような昨今、ピンポンダッシュはいよよ廃っていくだろう、と私は考えている。

 しかし、私の家にはいまなお頻繁にピンポンダッシュが出現する。といって、やっているのは元服前の子供ではなく、また、当人はピンポンダッシュをやっているつもりもないようで、ピンポンをした後、ダッシュをしないでゆっくりと立ち去っていく。

 なぜそんなことになるかと言うと、私の家が無駄に広いからで、誰かがピンポンと呼び鈴をならしてから応接に出るまで普通の家より倍ほども時間がかかる。その間に来訪者は留守と判断して立ち去ってしまうのである。そしてその来訪者というのが集金人の場合は都合が良いのだが、配達人である場合は困る。なぜなら配達物が受け取れないからである。

 そこでどうしたかというと、自分がダッシュした。つまり、ピンポンと鳴るや、玄関モニターホンの受話器めがけて全力で走っていく、いわば逆ピンポンダッシュをしたのである。

 しかしこれは生命の危険を伴った。なんとなれば玄関モニターホンの受話器は一階の長い廊下の半ばにあるが、日中、私は二階にいることが多く、ということは猛スピードで階段を駆け下りねばならぬということで、寄る年波で運動能力も衰えつつある昨今、そんなことをするうちにいつかかならず足を滑らせて転倒し、重傷を負うか、下手をしたら死亡するかもしれないからである。

 そこで私は逆ピンポンダッシュを啓蒙活動に切り替えた。

 どういうことかというと、ダッシュはけっしてしないのだけども、配達人が留守と判断して行きかけるのにちょうど間に合う程度に急いで行って受話器を取る、すなわち、ここの家は広いので応接に出るまで時間がかかる、ということを配達人が自ら理解するようにしむけるような活動に切り替えたのである。

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