サイゾーpremium  > 特集2  > 男性論客2人が考える【男はなぜ女の性欲が怖いのか?】

――加速する、女性が自分たちの性愛観を語る風潮を、男の側はどう受け止めているのだろうか? 本誌では小規模ながら今回、意識調査アンケートを実施。その結果を片手に、"セックスと恋愛を語る"AV監督・二村ヒトシ氏と、男性のための新しいセックス論『男子の貞操』(筑摩書房)も話題のNPO代表・坂爪真吾氏に、"男の性"意識との関わりを語ってもらった。

こちらのアンケートとあわせてお読みください)

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二村ヒトシ氏。(写真/堀 哲平)

──エロを扱う女性メディアの増加を、お2人はどのように感じていらっしゃいますか?

二村 確かにここ数年は、女性向けのウェブメディアが明らかに増えている。例えば「AM」なんかは、パッと見はオシャレなサイトなんだけど、中身は「セフレ特集」とかやってるわけで……初めて見たときは、わりと衝撃を受けました。

坂爪 でも、女性向けメディアがエロを扱うのは、今に始まったことではないですよね。例えば、北原みのりさんの『アンアンのセックスできれいになれた?』(朝日新聞出版)という本によれば、70年代の「an・an」は女性が能動的に性を語るような記事が花盛りだったようです。

二村 昔はそれこそ「an・an」くらいしかなかったんだよね。あるにはあったけど、女性向けのエロコンテンツは圧倒的に少なかった。でも、「an・an」なら女性が買うときに「いつも買ってるし」みたいな言い訳もできたし、おまけに当時は僕みたいな「女が女のために書いたエロい記事」に興味を持っていた男もこぞって買って、爆発的な売り上げにつながったんだと思う。

坂爪 ウェブメディアなら、女性がエロにアクセスするハードルも皆無に等しいですもんね。これまで、興味はあったけどインフラがなかった。その反動もあって、近年の増加につながっているのかもしれません。

二村 基本的にはすごくいいことだと思うんだよね。単に「欲求不満が解消された」というスケベ的な意味だけじゃなくて、エロに関する情報が不足してるって、女性にとっては切実なことでしょ。知識がないって危険だし、人生の豊かさにも関わってくる問題なわけで。ほかの人がどういうセックスやオナニーをしているかを、女性たちはとても知りたがっているんだと思う。

──それに伴い、女性自身の口から性欲や性愛観について語られる機会も増えたように感じます。その状況を、男性たちはどう受けとめているのか? それを調査したのが今回のアンケート結果です。

坂爪 もちろんこれは限られたサンプルのデータであり、必ずしも全体の傾向を表しているものではないとは思います。しかし、個々の声には興味深いものがたくさんありますよね。例えば「恋人が日常的にオナニーをしていたらイヤですか?」という質問に対して、「性欲が強い女性は嫌だから」(30歳・会社員)「性に貪欲そうでちょっと引く。そのときに何をオカズにしているかも気になる」(36歳・会社員)なんて声がありますが、女性の性欲を否定したり、見て見ないフリをする男性って、意外と多いのかなという気がします。

二村 多分、怖いんだと思う。僕の古い知り合いに、セックス相手のアソコが濡れてると怒り出すって男がいたんだけど。

坂爪 どういうことですか?

二村 自分自身の手で濡らしたいらしく、パンツを脱いだときに濡れていると、嫌な気分になるんだって。おそらく、「勝手に濡れやがって、エロ女め!」みたいな解釈なんだと思う。意味がわからないけど(笑)。

坂爪 でも、女性にその気になられると萎えるとか、女性から誘われると盛り上がらないとか、そう考える男性は多い。自分がコントロールできない女性を怖がったり、逃げたりする傾向がわりとありますよね。

二村 人間なんだから、女の人にだって性欲があるのは当たり前なんだけどね……。坂爪さんは既婚者だけど、Q4「恋人がAVを観ているのを目撃したら、どんなリアクションを取りますか?」のように、奥さんがAVを見ていたら、どう反応する?

坂爪 一緒に観たりはしないですが、「どのへんがよかったの?」って後で聞くかもしれないですね。

二村 よかったところを聞くって、実に面白いね。

坂爪 姉も妻も昔からやおいやBLが好きで、そういう状況に慣れているというのもあると思います。ドン引きどころか、興味を持ってしまうというか(笑)。

二村 今やおいやBLの話が出たけど、男ってさ、そういう女性による女性向けポルノも差別するでしょ。それってさ、「女にそんな淫乱であられては困るし、俺たちのチンコのないところで満足されても困る」という、すごくワガママな欲望の現れのような気がするんだよなあ。

坂爪 これはライブチャットを経営している人に聞いた話なんですが、利用者の男性には女性を怖がっている人が多いそうです。だから画面越しじゃないとコミュニケーションできない。おそらく、女性の性欲を怖がるのも、自分に自信が持てない、二村さんの言葉でいう「自己受容」ができていないからというのも大きいような気がします。

女性にも訪れたエロの「記号消費」

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坂爪真吾氏。(写真/堀 哲平)

──女性たちがアイドルやイケメンに対する興味を隠さずに表現するようになったのも、エロ語りの一部なのかなと思います(Q1~3)。韓流アイドルのDVDを観て裸体の品評会をする女性や、生の触れ合いを求めてAV男優のファンミーティングに出向く女性なども増えているようです。

二村 アンケート結果を見ると、否定的な意見も少なくないよね。これってつまり、男が女性から「記号的」に消費されることへの拒否感だと思うんだよね。男がアイドルやグラドルを性的に観賞しているのと、女の人が韓流やジャニーズにキャーキャー言うのって、原理的に同じことだよね。本来なら、つべこべ言う資格はないはず。

──坂爪さんは、著書『男子の貞操』の中で、女性を記号的に消費する男性の性文化を批判していますよね。

坂爪 ちゃんとコミュニケーションが成立したセックスをするためには、性を記号的に消費するだけではダメなのではないかという立場ですね。とはいえ、批判的に書いてはいますが、何も記号消費が全部悪いというわけではありません。「記号消費しかない」というのが問題であって、選択肢のひとつ、スパイスとしての記号は性を豊かにするという意味でもありだと思っています。今回でいえば、これまで男性の専売特許であった異性の記号消費の波が、女性にもやってきているということですよね。

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