――明日から公開の「サイゾーpremium 8月号」はジャニーズ&EXILE大特集。芸能界のイケメン市場に双璧をなす2大プロダクションを比較分析していきます! そこで今回は8月号キックオフ記事としてpremium限定記事をお届け。本誌サイゾーでは触れなかったEXILEを象徴するアノ人の光と影に迫ります。
「僕はEXILEが大好きです。いい大人が愛だの夢だの言っている姿が、僕にはとても美しくて、まぶしくてたまりません」
14年4月。日本武道館で、EXILEの新パフォーマーオーデ ィション「Coca-Cola zero Presents EXILE PERFORMER BATTLE AUDITION FINAL in NIPPON BUDOKAN」の合格者が発表された。そのステージでEXILE のボーカリストATSUSHIがTAKAHIROに向けて読み上げた手紙に、こんな一節があった。
何か、違和感を感じないだろうか。ATSUSHIはEXILEの一員だ。にもかかわらず、「まぶしくてたまらない」という言葉は、まるでEXILEという集団を”外側”からうらやましく見つめているような表現にさえ思える。自らこそEXILEの象徴でもあるはずのATSUSHIが、なぜこんな表現を使ったのか――。
13年末のHIROによるパフォーマー引退を受け、14年には”第4章”として動き出したEXILE。「EXILE TRIBE PERFECT YEAR 2014」と銘打ち、弟分である三代目J Soul Brothers(以下、三代目JSB)や妹分であるE-girlsなど、EXILE TRIBEとして括られる関連グループを挙げて、ライブやリリース、イベントを多発するなど「EXILE一族による”史上最大の祭り”」を繰り広げている。4月にEXILEのパフォーマーが5人増員されたことは各メディアに取りあげられ、パフォーマーオーディションとボーカリストオーディションのファイナリストたちで構成された新たなグループTHE RAMPAGEも始動した。
他方で世間を騒がせたのは、その記念すべき14年の秋ツアー「EXILE TRIBE PERFECT YEAR LIVE TOUR “TOWER OF WISH 2014”」に、ATSUSHIが参加しないと報じられたことに端を発する。脱退への布石ではないかとメディアは大いに騒ぎたて、ATSUSHI本人や事務所は強く否定するものの、ソロツアーをはじめとしたATSUSHIの盛んな個人活動も手伝って、いまだその噂が絶えることはない。
ソロ活動中のATSUSHIは、歌番組はもちろん『しゃべくり007』『ぐるぐるナインティナイン』(ともに日テレ系)、『とんねるずのみなさんのおかげでした』(フジ系)などのバラエティ番組にも個人で出演している。一方、EXILEはHIROをメインにプロモーションを展開。6月には著書『ビビリ』(幻冬舎)が発売され、HIRO自身が『SMAP×SMAP』(フジ系)、『おしゃれイズム』(日テレ系)などに出演して、EXILEの裏側を語る姿が放送された。さらには、土曜日の昼間に組まれた特番『EXILEってなんで人気なの? ~知られざるLDHの真実 ~』(日テレ系)ではEXILEの所属する株式会社LDH(以下、LDH)で社長業をこなすHIROの姿がクローズアップされ、「EXILE=HIRO=LDH」という構図がより世間に印象づけられた。
では、ATSUSHIは本当にEXILEと別離の道をたどってしまうのだろうか? 本稿では、"ATSUSHI"その人の抱える運命と、これからの"EXILE ATSUSHI"について考察してみたい。
劣等からスタートしたボーカリストの道
EXILE ATSUSHI。本名、佐藤篤志。言わずと知れたEXILEのメインボーカリストであり、EXILEの"顔"である。
そもそもATSUSHIは、そのスタートからして孤独を背負わされていた。”佐藤篤志”の名が初めて全国に知らしめられたのは、2000年。CHEMISTRYを輩出した『ASAYAN』(テレビ東京系)の「男子ボーカリストオーディション」だった。
CHEMISTRYを結成した川端要、堂珍嘉邦をはじめ、現在EXILEメンバーであるネスミス・竜太・カリム(現・NESMITH)、ミュージカル俳優としても活躍している藤岡正明とともに、ATSUSHIは最終審査の直前まで候補者として肩を並べていた。しかし、最終審査に進んだのは前者の4人。佐藤篤志は、『ASAYAN』のウェブサイト上で行われた人気投票でも、2000人の視聴者が参加したライブでの審査投票でも、川端、堂珍と同等の票を集めていたにもかかわらず、たった1人の落伍者としてオーディションの場を去ることになったのだ。
奇しくも、同オーディションのスーパーバイザーを務めていた音楽プロデューサーの松尾潔は、現在EXILEに深くかかわりのある人物。楽曲作りはもちろん、ATSUSHIとともに三代目JSBのボーカルオーディションに参画したこともあるのだから、因果な話である。
さて、CHEMISTRYが華々しくスターダムを駆け上がる一方で、一気に地に落とされ、満身創痍になっていたATSUSHI。彼を救ったのは、ほかでもないHIROだ。「ZOO」解散後に芸能界で苦渋を味わったHIROは当時、自らが集めたパフォーマーたちに新しくボーカルを加え、「ダンス&ボーカルユニット」として芸能界で再起を図ろうとしていた。そして、ATSUSHIは、同じく「男子ボーカリストオーディション」にも参加していたSHUN(清木場俊介)とともにボーカリストとして01年J Soul brothersに加入。のちにEXILEと改名し、晴れてデビューを果たすことになる。
だがこれは、同時にATSUSHI が数奇な運命を歩み始める第一歩でもあった。06年にSHUNの脱退、新ボーカリストTAKAHIROの加入を経て、デビューから13年間、EXILE のボーカリストと呼ばれ続けているのはATSUSHI だけだ。
彼の運命が数奇である理由は、ただ一つ、ATSUSHIをEXILEおよびLDHという「ダンサーからなる組織」の正しい血族ではないと見ることができるからだ。ボーカリストである以上、彼は永遠にHIROを祖とする"パフォーマーの血族"には属せないのである。
"パフォーマー"を生かすために存在する"ボーカリスト"という使命
EXILEというグループの功績は、たびたびこんなふうに物語られる。「"バックダンサー"という音楽業界の黒子的存在を"パフォーマー"と名付けることでアーティストの一員とし、その地位を押し上げたのだ」と。
そもそも、EXILEが所属するLDHも、もともとはダンスを軸とした企業だ。パフォーマーであるHIROが代表取締役社長を務めていることはもちろん、もっとも象徴的なのが自社経営のダンススクール「EXPG」だろう。いままでもLDH は「EXPG」でHIROの血を引く数多のダンサーを生み出し、世に輩出してきた。当然、EXILE増員時のメンバーや弟分グループのメンバーにも、その出身者たちは多く名を連ねている。
つまりEXILE、および下部組織EXILE TRIBEとは、ダンサー(=パフォーマー)の血族なのである。パフォーマーたちは、社長というよりもカリスマパフォーマーとしてのHIROを崇拝し、そのストイックさ、礼儀正しさを模倣しながら、上下関係がしっかりした体育会系の組織の中で絆を深め、パフォーマンススキルを高めていく。その結束は強固なものであり、実力も世に認められている通りだ。
ただし、彼らパフォーマーの血族は1つの矛盾を抱えている。それを示唆するのが、三代目JSBのパフォーマー山下健二郎が、14年6月に放送された『情熱大陸」(TBS系)で口にした証言である。
「(パフォーマーの)最大限の使命っていうか役目っていうのは、ボーカルが歌うメロディーと、あと歌詞をしっかり増幅させて、より曲の深さだったりとか、(パフォーマーは)視覚でしか伝えられないんで、見たときに『あ、この曲めっちゃいいな』って思ってもらえるアクセントだったりとか、スパイスになるダンスを目指してやっているというか……」
パフォーマーは、ボーカリストの作り上げた音楽の世界観をブーストさせる存在――山下は、こう語っている。裏を返せば、パフォーマーたちが実力を発揮し、音楽業界で発展し続けていくためには、ボーカリストの存在が必要不可欠なのである。EXILEという組織において、ボーカリストが持つのは、パフォーマーたちが生き生きと動き回る土地を耕し続ける使命だ。パフォーマーという血族が生きるためには欠かせない、影の立役者たち。それが、ATSUSHIたちボーカリストなのである。
そして話は、冒頭のATSUSHIの言葉に戻る。図らずも、自らの立ち位置を示すかのようなあの言葉に。
「僕はEXILEが大好きです。いい大人が愛だの夢だの言っている姿が、僕にはとても美しくて、まぶしくてたまりません」
ATSUSHIにとって、EXILEは「まぶしくてたまらない」集団なのだ。パフォーマーという血族ではないから、決してその中に入りきることができないから、傍観者として"EXILE"というグループに目も眩むほどの光を感じる。パフォーマーが光輝く場所を作るボーカリストは、あくまで影の存在なのだ。そのトップに立つATSUSHIは孤高であり、唯一であり、だからこそカリスマ性を放つのである。
ATSUHIが育てるこれからのEXILE
EXILEに加入したとき、ATSUSHIは最年少メンバーだった。一方、32歳で最年長だったHIROはかつて所属していた「ZOO」で知る人ぞ知るカリスマとなり、すでに実力あるパフォーマーたちを率いていた。若干21歳のATSUSHIは、彼らとともに活躍するために必要な新しい道を一から切り拓いてきたのだ。
EXILEの"第一章"でともにボーカルを務めたSHUNが脱退する際の心境を、ATSUSHIは著書『天音』(幻冬舎)の中でこう語っている。
「これからは僕一人で、このモンスター(注:EXILE)を歌わせなきゃいけない。(中略)パフォーマーの四人は家族のように大切な存在ではあっても、歌うことについての不安や相談を持ちかけていい相手ではない。それは彼らが自分のダンスについて僕に相談しないのと同じだ。(中略)もちろんヒロさんはなんでも相談に乗ると言ってくれていた。けれど、相談して解決する問題ならば重圧にはならないのだ」
EXILEの一員として楽曲やステージを作り上げながらも、ボーカリストとして誰とも共有できない重圧と孤独を抱えてきたATSUSHI。EXILEにおける"パフォーマーの祖"をHIROとするならば、彼はいまやEXILEの新しい伝統を紡ぐ" ボーカリストの祖"となっている。
弟分グループのボーカリストたちは皆、ATSUSHIというカリスマに熱烈な憧れを抱いている。たとえば、EXILEに追加メンバーとして加入したボーカリストSHOKICHI(THE SECONDと兼任)がATSUSHIに憧れてオーディションを受け、三代目JSBの今市隆二がATSUSHIとのツーショット写真をお守りのごとくスマートフォンの待ち受け画面に設定しているように。彼らは、ATSUSHIが懸命に紡いできたボーカリストの血脈を受け継いでいる。HIROがパフォーマーとして絶対的存在であるのと同様、ATSUSHIもボーカリストとして絶対的な存在になりつつあるのだ。
また、EXILEにおけるATSUSHIの役割も、徐々に変化しつつある。ただボーカリストとして歌うだけでなく、三代目JSBやGENERATIONSら弟分グループのレコーディングにも立ち会い、後輩たちのボーカルチェックや助言を行っている。さらに、前述した秋のドームツアーに向けて8月にリリースされるアルバム『EXILE TRIBE REVOLUTION』では、ボーカリストではなくプロデュース側に回り、ツアー全体の音楽面でのプロデュースも行うという。
もはや、ATSUSHIは一ボーカリストとしてだけでなく、後継者を育てる教育者として、音楽面の軸を作るプロデューサーとして、なによりEXILEのボーカリスト像を示す生き神として、さまざまな形でEXILEの音楽面を支えなければいけない宿命にあるのだ。そんな彼が、EXILEから脱退することなど、考えられるだろうか。
「僕にとって、EXILEはかけがえのない拠り所だ。(中略)EXILEは、僕が生まれてきた意味そのものなんじゃないかと思うくらいだ」(ATSUSHI『天音。』/幻冬舎)
自著でそう語る彼に湧いた脱退騒動は、杞憂で終わるだろう。ソロツアー「Music」を終えたばかりのATSUSHIは、2014年はEXILEに戻ることはないものの(シングルのリリースやそれにともなうプロモーションは稼働するとのこと)、15年からは新たなEXILE、そしてEXILE TRIBEを構築するために、より一層ボーカリストの血族を育てていくに違いない。
(文/左 団扇)