――今年4月、「小悪魔ageha」の版元であるインフォレスト社が倒産した。独特すぎる誌面と名物編集長の存在で00年代後半に話題を呼びまくった「ageha」がどうなってしまうのか、と思っていた矢先に今度は「egg」が休刊を発表。いよいよギャル誌は終わりつつあるようだ。あるいは、きゃりーぱみゅぱみゅを生んだ“原宿系”青文字雑誌の隆盛も、ひところに比べれば落ち着き、一方で「CLASSY.」が実売90%を達成するなど再び赤文字的なコンサバへの揺り戻しも見られる。刻々と変化し続ける女性ファッション誌の潮流の中で、現在の女性の消費とライフスタイルに、雑誌はどうコミットできるのか? 雑誌不況の現在だからこそ考えてみたい。
(写真/永峰拓也)
[座談会出席メンバー]
A:30代女性ライター。90年代末からギャル誌に関わり、E誌ほか、執筆した雑誌は多数。
B:30代女性ライター。A誌などのギャル誌やギャル男誌R、ファッションムックなどで執筆。
C:20代女性編集。人気ギャル雑誌Jに2年在籍。自身もギャル。
97年9月号巻頭目次ページより。スナップ写真の切り貼りコラージュは当時の「egg」の特徴だった。顔の黒さと髪色の黒さも相まって、ページ全体が異様な密度に。
ゼロ年代後半、人気モデルの益若つばさが100億円の経済効果と謳われ、社会現象にもなったage嬢ブームなど、一世を風靡したはずのギャルカルチャーに異変が訪れている。今年4月の「小悪魔ageha」(以下「ageha」)、「姉ageha」(以下「姉」)、「Happie nuts」(以下「nuts)などギャル誌を発行していたインフォレストの倒産、5月にはギャルカルチャーのパイオニアである「egg」(大洋図書)の休刊が発表された。その渦中にあるギャル雑誌編集者は今、何を思うのか?
A 「egg」は去年くらいから危ないとは言われてたんだけど、ついにって感じですね。
C 昔から読んでいたのでショックです。休刊の原因って、なんだったんですか?
A 単純に、広告が入らなくなったのが理由だと思う。震災以降、目に見えて減ってきてたんだよね。今でも、実売はそこまで悪くはなかったはず。でもまあ正直、20年近くもよく続いたと思うよ。
B ギャルもずいぶんと変わりましたもんね。黒髪も増えたし、メイクも薄くなったし。
C 「Ranzuki」(ぶんか社)や「Popteen」(角川春樹事務所)も“清楚”方面にリニューアルしましたね。自分は古い時代のギャルなので、「清楚系ギャル」ってマジ意味わかんないですけど。今は、「肩の力が抜けてるほうが可愛い」みたいな価値観になっていってるのかな。「抜けてる」ほうが「盛れてる」って扱い。「抜け感」「こなれ感」は、困ったときに書きます(笑)。
A それもあるけど、昔に比べてギャルの持ち物が安くなったな~って感じる。90年代のギャルは、10万円するコートやブランドバッグも流行れば買ってたけど、今のギャルの子たちはH&MやGUでいいんだもん。スナップ撮っても、全身コーディネートの合計が1万円以下なこともざらだし、お金がないんだよね。そりゃギャル雑誌にも広告入らなくなるよ。
B あの頃のギャルって、なぜかお金を持っている子が多かったですよね。
A 昔のギャルはガラの悪い子が多かったから、オヤジ狩りとか援助交際なんかもあったんだろうし、そもそも世の中の景気がまだ今ほど悪くなかったから、親も裕福で使えるお金があったんじゃないかな?
C Bさんは、インフォレスト倒産の影響ってありましたか?
B 私はメチャクチャありましたよ。ぶっちゃけ、ギャラの未払いもありますし。倒産も編集さんからじゃなくって、ネットのニュースで知りました。去年の年末くらいから、長く勤めていた人もどんどん編集部を辞めていって。社員さんにも給料の支払い遅れがあったみたいで「危ないな~」とは思っていたけど、さすがにこんなに急になくなるとは思わなかった。負債がどんどん膨らんでたから10年には神楽坂にあった自社ビルを売却したのに、倒産時のニュースを見たらその頃から負債額が全然減ってなくて、「あのお金はどこにいったの?」って感じです。
C 雑誌自体の業績は、どうだったんですか? 編集体制が大幅に変わった「ageha」はともかく、休刊を発表した「nuts」は安定してるように見えました。
B 「nuts」は広告も入ってたし、実売もあったので、休刊は本当にもったいないし、編集部も悔しいでしょうね。
C 「egg」と「nuts」休刊の後、「JELLY」(ぶんか社)編集長のツイッター見てたら、両誌の人気モデルをフォローし始めてて、これは引き抜き狙ってるな~って思いました(笑)。
B 「姉」は復刊が決まったってニュースが出ましたけど、あの雑誌は美容整形の広告が入りやすいからというのもあると思います。一方で、「ageha」はどうなることか……。編集長が二代目に替わる時に、本来引き継ぐはずだったベテラン編集さんが「自分には荷が重い」って辞退しちゃって。それでほかの編プロの人が、新編集長に指名されたみたいです。彼も大変だったと思うけど、「ageha」も復刊してほしいですね。
A 初期の「ageha」は企画が面白かったよね。キャバ嬢に歌舞伎町で駅伝させたりとか(笑)。
B 確かに(笑)。毎号必ずぶっ飛んでる企画がありましたね。制作にもすっごく細かいこだわりを感じたし。特に初代編集長の中條寿子さんは、納得のいくカットがなかったら再撮影をするくらいのこだわりようで。対応するのは大変だったけど、「可愛くない」って言われたら「じゃあ仕方ないですね」って思わざるを得なかった。まさに「可愛いは正義」(笑)。デザイナーさんも、修正が細かすぎて怒ってたりしたけど、最終的にいい形に仕上がるから、結局のところは納得してましたね。
C 最近の「ageha」は、ちょっと雰囲気変わってましたよね。あれは新編集長の意向ですか?
B 「オシャレ雑誌にしたい」的な、編集の方向転換はあったみたいですね。
C えー! オシャレな「ageha」とかありえないですよ。ヤンキー色がなくなったら、面白くないに決まってるじゃないですか!
A 最近注目されてる「LARME」(徳間書店)はすごいオシャレだけど、初期の「ageha」っぽいこだわりを誌面から感じるよね。あれは編集長の中郡暖菜さんがもともと「ageha」編集部にいたんでしょう?
B そうです。中郡さんは「ageha」にいた頃から中條さんにかわいがられてて、目をかけてもらっていた人でしたね。「LARME」もインフォレストから出せるように後押しされてたんだけど、中條さんの退職もあって頓挫しちゃったみたい。結局徳間書店から出してヒットしちゃったから、しばらくは「ageha」編集部で「LARME」の話は禁句だったんです(苦笑)。
モデル事務所とブログの功罪……炎上にビビるモデルたち
黒肌・ブリーチ全開期の「egg」01年10月号。“マンバ”の子もこの時期は多く誌面に登場している。
B 「egg」も「ageha」も結局昔ほど誌面作りがうまくいかなくなってた、という話ですけど、モデルと制作側の付き合い方が変わってきたのも大きくないですか? 要は、以前はマジで一般人の読者モデルだったのが、ここ最近は皆すぐ事務所に入っちゃうじゃないですか。例えば「モデルのお部屋特集」みたいな企画でも、昔はリアルさを重視して多少部屋が汚くても載せてたんですよ。私物公開も、ありのままを載せてたし。今はそういうのも「おしゃれじゃない部分は見せない」と、いろんな人から調整が入るようになっちゃって。
A ギャルの部屋が汚いのは普通じゃん(笑)。昔と比べて全体的に「NG」が増えたよね。90年代のギャルは、どんなに人気のある子でもストッキングかぶったり【註:「egg」には初期から、モデルがパンストをかぶる名物企画があった】エロトークしたり、ヨゴレ企画もどんとこいって感じだったのに、最近の子はすぐ「あ、これはNGなんで」とか「写真チェックさせてください」とか言い出す。「アンタたち、ただの読モのくせに!」って(笑)。モデルが事務所に出る雑誌を決められるなんてこともあったみたいで、「『egg』に出たいのに事務所がOKしてくれなくて……」って泣きつかれることもあった。そう言われても、こちらもそれはどうにもしてあげられないから困っちゃう、みたいな。
C 逆にキャリアの長いモデルになると、ギャル誌なのになぜかハイファッション方面に走りだしたり。そういう子はこちらも持て余しちゃいますよね。
A 益若つばさブームくらいからかな、モデル事務所や、モデル自身がアパレル事業を手がけるようになることが増えてから誌面に対する注文が多くなった。そうすると、雑誌に載ってる服が「モデルが着たい服」じゃなくて「編集部や事務所が着せたい服」になっちゃった。いわゆる「大人の事情」だよね。モデル事務所とブログ運営会社が作った雑誌「Nicky」(創刊時は竹書房)はそれが特にひどくて。「ウチの所属の子しか使うな!」くらいの勢いで。編集部も事務所の言いなりにならざるを得ないから、こっちのモチベーションも下がるよね。