サイゾーpremium  > 連載  > 小原真史の「写真時評 ~モンタージュ 過去×現在~」  >  写真時評~モンタージュ 現在×過去~【27】
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写真時評~モンタージュ 現在×過去~

「北」の日常風景

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「牛は国家財産」(2003年)
 鼻輪がはずれてしまった形跡のある牛が引っ張る牛車で、住民が丘を下っている。左側のトウモロコシ畑は人民軍の副業用の畑だ。

 北朝鮮ではガソリンが不足し、牛を利用してさまざまな仕事を行っている。そのため、「牛をたくさん育てようとした首領様の教示を徹底的に貫徹しよう」というスローガンがある。牛は国家財産であり、個人所有は禁じられている。仮に国家財産である牛の個人所有を認めていたとしたら、「苦難の行軍」の時期に生き残った牛はいなかったかもしれない。300万人が餓死したと推測されたこの時期、牛を捕って食べれば公開銃殺するといわれ、牛は生き残った。

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「ひなたぼっこ」(2000年)
 燃料が貴重な北朝鮮では、屋内がとても寒い。冬でも、日が当たる外のほうが暖かい。男の子と女の子がハモニカ長屋の壁にもたれ、ひなたぼっこをしていた。左の木の煙突にはビニールが巻かれ、煙が効率よく外に出るように工夫されている。屋根はトタンだ。

 北朝鮮は、1990年に改正された民法第50条で「国家は住宅を建設し、その利用権を労働者、事務員、協同農民に譲渡し、それを法的に保護する」と規定した。だが、住宅普及率は50~60%にすぎない。第3次7カ年計画(87~93年)では、23~30万戸の住宅建設方針を打ち出したが、5万戸の建設にとどまった。住宅の私的所有や取り引きは禁止されている。しかし、80年代半ば以降、住宅不足はより深刻になり、ヤミ売買が黙認されているのが現実だ。最近では食料不足のせいで、住宅を売って食料を手に入れる人々も増えている。

 日本では北朝鮮のことを「北」と呼ぶことが慣習化しているが、そこには「朝鮮民主主義人民共和国」という国名を公式に認めていないということだけでなく、「よそ」というニュアンスも込められているだろう。マスメディアを通じて頻繁に目にする「北」の映像は、「われわれ」とは違う「他者」のイメージとして流通している。しかし、北朝鮮から提供される軍事パレードやマスゲーム、首都平壌の街並みのような空間は、撮影されることを前提としているものであるから、北朝鮮の日常的な風景とは乖離しているに違いない。

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