――弱冠25歳にして岸田國士戯曲賞を受賞するなど高い評価を受ける一方で、演劇界の議論の中心にもなってきた「マームとジプシー」主宰・藤田貴大。今夏の公演で目指す場所を尋ねた。
(写真/永峰拓也)
演劇界の芥川賞とも言われる岸田國士戯曲賞を受賞し、注目を浴び続けている劇団・マームとジプシー。彼らの活動は少し異色だ。劇団として公演を打つだけでなく、音楽家の大谷能生やマンガ家の今日マチ子、歌人の穂村弘やブックデザイナーの名久井直子など、他ジャンルの作家たちと共作を発表し続け、その客層を広げている。
「別に、普段演劇を観ないお客さんを劇場に呼ぼうと思って共作してるわけじゃないんですけどね」。そう語るのは、マームとジプシーを主宰する演劇作家・藤田貴大だ。
「僕の劇を観にきてくれる人が少しずつ増えてきたときに、作家やアーティストの人も来てくれるようになったんです。終演後に一緒にお酒を飲んだりするんですけど、いくらそこで『共感する』という話をしたって、それはただの飲み会でしかなくて。相手が作品を作る人なら、その人と関わるのは飲み会がベストな場ではないから、タイミングが合えば一緒に作品を作ろうって話になるんですよね」
マームとジプシーの旗揚げは07年、藤田が22歳のときのこと。その名前にも表れているように、彼らは旗揚げ当初から、旅公演を目標としてきた。今年の春にようやくその念願が叶い、川上未映子によるテキスト『まえのひ』などを上演するツアーを行って、全国7都市を回った。ただ、その旅公演も劇団としては異色だ。彼らはまるでバンドのようにして、ハイエース1台で旅に出たのである。
「昔から『バンドみたいに全国ツアーをやりたい』と思ってたから、本当にこれがしたかったんだってことは思いましたね。ただ、当たり前のことなんですけど、バンドがツアーをするのとは全然違くて。単純に荷物の量もヤバかったし、演劇という形式自体が“重い”んだってことは痛感しましたね」