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第1特集
タックスヘイヴンの裏事情【1】

ヴァチカン、ケイマン、スイス……ヤクザもIT企業も使うタックスヘイヴンの闇

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――タックスへイヴン(租税回避地)は、かつてはマフィアの資金洗浄にも利用された。だが今は、グローバル企業と富裕層の脱税に使われ、世界経済を狂わせている!?

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カリブ海に浮かぶケイマン諸島の首都、ジョージタウン。写真のような美しいリゾート地である一方、日本の都市銀行や大手証券会社、総合商社の支店もある。(c) D A Scott

 イギリス海外領土のケイマン諸島は、カリブ海に浮かぶ人口4万人ほどの小さな島だ。観光業くらいしか産業がなさそうなひなびた南の島だが、約600もの銀行が支店を置き、8万社の企業が登記、保有される預金は1兆9000億ドルを超えるといわれる。

 なぜ、この小島が金融大国となっているのか? それは、タックスヘイヴン(租税回避地)だからである。タックスヘイヴンとは、法人税や所得税の税率が極めて低いか、もしくは無税の国や地域のことを指す。一般に、めぼしい産業がない小国が、海外企業や富裕層を集め、登録料や手数料などにより外貨を獲得するための政策である。

 代表的なタックスヘイヴンには、前述のケイマン諸島や英領ヴァージン諸島をはじめとするカリブ諸国のほか、アジアのシンガポールや香港やマカオ、ヨーロッパのスイスやルクセンブルクやリヒテンシュタインなど、35の国と地域がある。

 例えば香港やシンガポールは、アジア金融のハブとして機能しており、旧イギリス植民地だったためイギリスと関係が深い。そのイギリスには、シティ・オブ・ロンドン(通称シティ)という世界的な金融センターがある。シティは厳密にはタックスヘイヴンではないものの、自治権を持つ特別区であり、実質的には世界最大のタックスヘイヴンとして世界の経済を動かしているのである。

 また、カリブの島国は、地理的にアメリカと近接しており、ニューヨークのウォール街と同じ時間帯であることから、「アメリカの裏庭」と呼ばれている。そのアメリカは国内でも州によって税制が異なることで知られ、とりわけ法人税率が低いデラウェア州には、企業法務弁護士も多くおり、裁判では企業に有利な判決が出ることなどから、全米の約8割の会社が登記しているという。

 あるいは、欧州のスイスやルクセンブルクは、ドイツ語、フランス語圏ということもあり、ヨーロッパ金融のハブとして利用されてきたのだ。

かつてはマフィアが資金洗浄に利用

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約30年前、マフィアやフリーメーソンとの癒着が露呈し、関係者の死が相次ぐなど大スキャンダルに見舞われたバチカン銀行。今も黒いカネが流入!?  (c)A.G. Photographe

 これらタックスヘイヴンの問題点のひとつに、情報の不透明性、秘匿性がある。現在は、透明化が進められているが、かつては各国の税務当局間で情報交換ができなかった。そのため、麻薬や武器の密輸、売春などによって得られた多額のアングラマネーがタックスヘイヴンを経由して、秘密裏に世界各国へ送金されていたのだ。小説『タックスヘイヴン』(幻冬舎)などの著書があり、マネーロンダリング(資金洗浄)に詳しい作家の橘玲氏は次のように語る。

「例えば、ヨーロッパの代表的な国内タックスヘイヴンであるヴァチカンは、イタリアのマフィアや政治家と密接な関係があることで知られています。ヴァチカンを擁するイタリアは、第二次世界大戦後、キリスト教民主党と共産党が激しく対立していました。その中で、アメリカやイギリスの情報部に協力して共産党への謀略を仕掛けていた反共主義者のリーチオ・ジェッリが、1963年にフリーメーソンの秘密組織『プロパガンダ2(P2)』を結成します。P2は、CIAの支援のもと勢力を拡大し、アルゼンチン、ブラジル、コロンビアといった中南米諸国の軍事独裁政権と手を結びながら、南米の麻薬をアメリカに持ち込むと同時に、軍事政権や反共組織のために武器調達を行いました。その麻薬資金を洗浄するために、バチカンを利用したのです。バチカンは、アメリカの暗黙の了解のもと、マネーロンダリングから10~15%の手数料を徴収し、その収益の一部を反共組織や右翼団体の支援資金としていました。つまり、反共の理念のもと、バチカン、CIA、マフィアは手を組んでいたわけです。現在も、バチカンとイタリアの裏社会の関係は続いているといわれています」

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