――90年代には『ときめきメモリアル』をはじめ、恋愛シミュレーションゲームの流行などもあり、この要素を備えたエロゲー(年齢制限を持つアダルトゲーム)は、社会に広く知れ渡ることになった。ここでは近年の過激な作品群や、メディアミックス展開の増加などの業界の変化も概観し、その最新形態をリポートしたい。
秋葉原には、今もエロゲー専門店が軒を連ねるが……。
エロゲー業界の現在の市場規模については、2000年代前半をピークに下り坂に入っている……というのが関係者の共通の見方のようだ。『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版社)の著者・宮本直毅氏は次のように語る。
「各種データから推測するに、02~03年頃の500億円台中後半の数字が、市場規模のピークだったと思われます。現在はおそらく半減、推移も微減か横ばいの状態でしょう」
売上減については、違法コピーの増加なども原因に考えられるが、「スマホのアプリなど手軽にエロを楽しめるゲームが出てきたことも大きいのでは」と宮本氏は続ける。
「いつでもどこでも即プレイできるそれらのゲームに対し、いわゆるエロゲーをプレイするには、まずPCが必要。ゲームを買いに行くかネットで注文し、手に入れたらインストールして……と、プレイするまでのステップが多いんです。商業メーカーの作るソフトは、通常8800円のものが多く、その価格の高さも含め、エロゲーは若い人には“重い”存在に感じられるのではないでしょうか」(同)
『超エロゲーハードコア』(太田出版)の著者のひとりである箭本進一氏は、その一方で低価格帯のソフトが増加していることにも触れ、エロゲーがさまざまな面で「二極化」している現状を指摘する。
「価格面では8800円のいわゆる”フルプライスもの”以外にも、2000~3000円程度の低価格のゲームも増えてきている。前者は(ストーリーにも)萌え要素が高く、パッケージも華やかで、モノとして手元に置きたがる人が多いのに対し、後者はダウンロード版も活発に動いている印象です。タイトルは扇情的、内容も“いかにヌケるか”という実用性を重視したものが多いのが特徴ですね。ダウンロードでの購入は手元に箱などの現物が残らないので、エロゲー好きを隠したいユーザーにも魅力的でしょう」
また、作品の内容面での「メジャー志向」と「マニア向け」という二極化も進んでいるという。
「マニア向けのものは低価格帯の作品に多く、ジャンルの細分化が今も進んでいます。一方でメジャー志向のものは深夜アニメなどの趣向に近く、学園モノという定番の設定をベースに、バトルや魔法といった要素を組み合わせているものが多い。価格はフルプライスが中心で、作品としてのクオリティも高いものが多いです。近年の代表的な作品は『リトルバスターズ!』『ワルキューレロマンツェ 少女騎士物語』『真剣で私に恋しなさい!』など。これらの作品はマンガ化されたり、エロ要素を抜いた上でテレビアニメ化や家庭用ゲームへの移植がされたりと、メディアミックスが盛んなのも特徴ですね」(同)
『ワルキューレロマンツェ 少女騎士物語』はメディアミックスも成功した。
馬上槍試合をモチーフにした学園モノのエロゲー『ワルキューレロマンツェ 少女騎士物語』は、昨年末にテレビアニメ化されて話題となった作品だ。オタク業界の動向に興味を持たない向きにとっては、エロゲーが原作の深夜アニメが放送されていること自体が驚きかもしれない。
しかし「このようなメディアミックスは業界にとって良いことだらけなわけではない」と前出の宮本氏は続ける。
「『ワルキューレロマンツェ 少女騎士物語』はアニメ化後、原作エロゲーの動きも良くなったようですが、それはどちらかというと稀有な例。メディアミックス展開により原作のエロゲーを買う人が劇的に増えることは少ないですし、アニメを見る人はアニメだけで完結している場合が多いんです。またラノベ化されてしまえば、作品の価格はエロゲーの10分の1以下になりますから、本来はエロゲーを買っていてもおかしくなかった層が、他ジャンルに流れている現状もあります」(宮本氏)